安いモデルで全件を判定し、自信のない案件だけClaude Opus 5.5に回す。データ基盤のHightouchが11月4日に公開した名寄せ判定の実験では、この組み合わせがOpus単独とほぼ同じ精度(98.8%と99.0%)を、1,000件あたり0.88ドルと3.86ドルで達成しました。4倍以上安い計算で、Hacker Newsでも340点を集めています。
ただ、同じ記事の「難しいデータ」の数字から逆算すると、Opusに回した割合は53%に増え、安くなったのは1.83倍にとどまります。費用を決めるのは安いモデルの単価ではなく、上位モデルに回す割合です。また、Anthropicが用意している「advisorツール」は、短い作業では1回呼ぶだけでOpus単独と同じかそれ以上の費用になります。分類や判定のような短い仕事は自前の振り分け、多段の長い作業はadvisor、と使い分けるのが私の結論です。
APIは呼んでいません。公式の料金表とHightouchの公表値から計算し、その計算スクリプトも載せています。
「4倍安い」の内訳は、Opusに回した割合でほぼ決まる
組み合わせの費用は「安いモデルで全件を処理する費用+Opusに回した割合×Opusの費用」です。Hightouchも組み合わせの費用に安いモデルの全件分を含めています。公表値を当てはめると次のようになります。
- 易しいデータは、0.05ドル+21.5%×3.86ドル=0.88ドル。Opus単独の4.39分の1で、精度は98.8%(Opus単独は99.0%)でした。
- 難しいデータは、0.06ドル+53.4%×5.39ドル=2.94ドル。半分以上をOpusが見直したため1.83分の1にとどまり、精度は95.3%でした(Opus単独は95.1%)。
安いモデルの費用は0.05〜0.06ドルと、ほぼ誤差です。易しい案件が多い業務ならOpusの2割で済み、迷う案件が多い業務では半分以上を回すことになります。「4倍」は前者の数字です。
もう一つ見落とせないのが、安いモデルの「自信」の当てになり方です。Hightouchの実験では、単独の精度が高いGPT-6 Luna(97.3%)より、Jev(95.7%)のほうが組み合わせに向いていました。Lunaは間違えるときも自信を持ちやすく、迷った案件を拾えないためです。振り分けに使うモデルは、単独の精度ではなく、自信のない案件に誤りが集まるかで選びます。
問い合わせ分類を月1万件なら、2割を回して月29ドル
自分の業務に当てはめるため、問い合わせメールの分類を例に計算しました。仮定は1件あたり入力2,000トークン・出力200トークン、月1万件です。単価はAnthropicの料金表の標準料金で、Haiku 5.5が100万トークンあたり入力0.10ドル・出力0.50ドル(10万トークン以下のプロンプト)、Opus 5.5が4ドル・20ドルです。プロンプトキャッシュは使わない前提です。
- Haiku 5.5だけなら1件0.0003ドルで、月3ドルです。
- Opus 5.5だけなら1件0.012ドルで、月120ドルです。
- 10%をOpusに回すと月15ドルで、Opus単独の8分の1になります。
- 22%を回すと月29.40ドルで4.08分の1、53%を回すと月66.60ドルで1.80分の1です。
どの割合でもOpus単独よりは安く、同額になるのは97.5%を回したときです。つまり費用面では、回す割合が少々増えても困りません。困るのは、Haikuが自信を持って間違えた案件がOpusに届かず、そのまま通ることです。導入前に確かめるべきは単価ではなく、自社の過去データで「自信のない案件に誤りが集まるか」です。
当サイトでも、小型のLFM3で問い合わせを分類し、迷うものだけ思考モードで確かめる手順をM3 Macで試した記事で紹介しています。上位モデルをOpusに置き換えれば、同じ考え方でAPIにも使えます。
advisorツールは「回す」のではなく「相談する」。短い作業では割高になる
Anthropicのadvisorツールは、Sonnet 5.5やHaiku 5.5が作業の途中で、必要と判断したときだけOpusなどに助言を求める仕組みです。APIのツールとしてadvisor_20260301を指定し、ベータの見出しadvisor-tool-2026-03-01を付けて使います。Claude APIのほか、AWSとGoogle Cloud経由でもベータで使えます。
自前の振り分けと違うのは、助言する側が会話全体を読むことです。システムプロンプト、ツールの定義、それまでのやり取りがすべて渡され、その入力もadvisor側の単価で課金されます。上の問い合わせ分類で1回相談すると、入力2,000トークンをOpusの単価で読んで0.008ドル、助言の出力が200〜700トークンなら0.004〜0.014ドル。合計0.012〜0.022ドルで、Opusに最初から任せた場合の0.012ドルと同じか、それ以上です。しかもHaiku自身の回答の費用は別にかかります。
一方、Anthropicの発表では、コード修正の評価(SWE-bench Multilingual)で、SonnetにOpusの助言を付けると正答率が2.7ポイント上がり、タスクあたりの費用は11.9%下がりました。出力の長い多段の作業では、Opusに全部書かせるより、要所の判断だけ借りるほうが安く済むからです。日本語でも、issohの検証記事が「1文で答えるだけの依頼で、advisorが約2.6万トークンを読み、費用の67%を占めた」と報告しています。
費用を確かめるときの注意もあります。advisor分のトークンはusage.iterationsに別建てで記録され、最上位のusageにはexecutor分しか入りません。最上位だけを集計すると、費用を少なく見積もります。1リクエストあたりの相談回数はmax_uses、助言の長さはmax_tokens(最小1,024)で上限を決められます。
どちらを使うかは、1件の長さと「自信」を出せるかで決める
自前の振り分けが向くのは、問い合わせ分類、名寄せ、請求書の項目抽出のように、1件が短く独立していて、安いモデルに確信度や「判断できない」を出させられる仕事です。回した割合と費用を自分で数えられるのも利点です。
advisorツールが向くのは、コードの修正や調査のように、何手も進める途中で一部の判断だけが難しい仕事です。ただしベータであり、相談するかどうかは実行側のモデルが決めます。相談がほとんど起きなければ、ツールを付けた意味がありません。
どちらにしても、Anthropicが勧めるとおり、自社の評価データで「安いモデル単独」「組み合わせ」「Opus単独」の3通りを流し、精度と費用、回した割合を並べてから決めます。今回の数字は仮定と他社の実験に基づくもので、あなたの業務の値ではありません。
割合と単価を変えて試せる計算スクリプト
上の数字はすべて次のスクリプトで計算しました。Python 3の標準ライブラリだけで動きます。PRICEの単価と、ITEMS・IN・OUTの件数・トークン数を自分の業務に合わせて書き換えてください。
"""安いモデルで全件を処理し、迷った分だけOpusに回すときの費用を計算する。単価は米ドル/100万トークン。"""
from decimal import Decimal as D
MILLION = D(1_000_000)
PRICE = { # platform.claude.com/docs/en/about-claude/pricing(2026-11-07確認、標準料金)
"haiku-5.5": (D("0.10"), D("0.50")), # 10万トークン以下のプロンプト
"opus-5.5": (D("4"), D("20")),
}
def per_item(model, input_tokens, output_tokens):
price_in, price_out = PRICE[model]
return (input_tokens * price_in + output_tokens * price_out) / MILLION
def hybrid(cheap_cost, strong_cost, routed_share):
return cheap_cost + routed_share * strong_cost
# 1) Hightouchの公表値(1,000件あたり米ドル)から、Opusへ回した割合を逆算する
for label, cheap, opus, reported in (("easy", D("0.05"), D("3.86"), D("0.88")), ("hard", D("0.06"), D("5.39"), D("2.94"))):
share = (reported - cheap) / opus
print(f"hightouch {label}: routed={share:.3f} saving=x{opus / reported:.2f}")
# 2) 問い合わせ分類の想定:1件=入力2,000・出力200トークン、月1万件(仮定)
ITEMS, IN, OUT = D(10_000), D(2_000), D(200)
haiku, opus = per_item("haiku-5.5", IN, OUT), per_item("opus-5.5", IN, OUT)
print(f"per item haiku={haiku} opus={opus}")
print(f"monthly haiku_only=${ITEMS * haiku:.2f} opus_only=${ITEMS * opus:.2f}")
for share in (D("0.10"), D("0.22"), D("0.53")):
cost = ITEMS * hybrid(haiku, opus, share)
print(f"route {share:.0%}: ${cost:.2f} saving=x{ITEMS * opus / cost:.2f}")
print(f"break-even share={1 - haiku / opus:.3f}")
# 3) advisorツール:助言1回ごとに会話全体(入力)をOpus単価で読み、助言を出力する
for advice_out in (D(200), D(700)):
advice = per_item("opus-5.5", IN, advice_out)
print(f"advisor call out={advice_out}: ${advice:.4f} per call vs opus_only ${opus:.4f}")実行結果です。
hightouch easy: routed=0.215 saving=x4.39
hightouch hard: routed=0.534 saving=x1.83
per item haiku=0.0003 opus=0.012
monthly haiku_only=$3.00 opus_only=$120.00
route 10%: $15.00 saving=x8.00
route 22%: $29.40 saving=x4.08
route 53%: $66.60 saving=x1.80
break-even share=0.975
advisor call out=200: $0.0120 per call vs opus_only $0.0120
advisor call out=700: $0.0220 per call vs opus_only $0.0120
