Moonshot AIが10月23日に公開したKimi K3.1 Proは、各メディアで「Claude Opus 5.5の半額」と紹介されています。料金表を並べると、確かに入力2ドル・出力10ドル(100万トークンあたり)で、Opus 5.5の4ドル・20ドルのちょうど半分です。
ただ、同じ表にもう1行足すと見え方が変わります。Claude Sonnet 5.5の定価も入力2ドル・出力10ドルで、K3.1 Proと同じです。キャッシュ済み入力はSonnet 5.5のほうが安いくらいです。
それでも、第三者の測定では1タスクあたりの費用はK3.1 Proのほうが大幅に安く出ています。差を生んでいるのは単価ではなく、答えを出すまでに書くトークンの量です。以下、料金を同じ条件で比べた結果と、Codexから試す手順、業務で使う前に確かめておきたいデータの扱いを順に見ていきます。
定価はSonnet 5.5と同じ。違いは出力の量で決まる
まず、トークン量を同じにそろえて計算します。条件は、コーディング作業1回分を想定した「キャッシュ済み入力180万・通常入力20万・出力10万トークン」です。単価はKimiの料金表とClaudeの料金表(いずれも10月24日確認、税別)を使い、通常入力はキャッシュ書込みではなく基本の入力単価で計算しました。
K3.1 Proの場合、式は「1.8 × 0.20 + 0.2 × 2.00 + 0.1 × 10.00」で、1.76ドルです。
| モデル | 入力 / 出力の定価 | 同じ量での試算 | AAの1タスク実費 |
|---|---|---|---|
| Kimi K3.1 Pro | $2 / $10 | $1.76 | $2.11 |
| K3.1 Pro Highspeed | $4 / $20 | $3.16 | 未掲載 |
| Claude Sonnet 5.5 | $2 / $10 | $1.58 | $5.46 |
| Claude Opus 5.5 | $4 / $20 | $3.16 | $5.98 |
同じトークン量なら、Sonnet 5.5のほうがK3.1 Proより少し安くなります。キャッシュ済み入力の単価がSonnet 5.5は0.10ドル、K3.1 Proは0.20ドルだからです。Highspeed版はOpus 5.5とまったく同じ3.16ドルでした。
右端の列は、Artificial Analysisの評価ページに表示されていた、同社の知能指数テストを1問解くのにかかった平均費用です(10月24日に確認)。K3.1 Proの2.11ドルに対し、Sonnet 5.5は5.46ドルで約2.6倍でした。テスト全体で出力したトークンは、K3.1 Proが1億5000万、Sonnet 5.5が4億2000万と約2.8倍の差があり、費用の差はほぼこの出力量の差で説明できます。同じ測定での知能指数は、K3.1 Proが55、Sonnet 5.5が56、Opus 5.5が58です。
つまり「K3.1 Proは安い」は、単価の話としては正しくありません。正確には「同程度の成績を、少ない出力で出している」です。ただしClaudeの2モデルは最大の思考設定(Max)で測られており、自社の作業でも同じ比率になるとは限りません。Claude側も思考の量を調整すれば出力は減ります。比べるなら、自社の作業で実際に使ったトークン数を見るのが確実です。
思考は常にオン。費用を抑える設定は2つ
K3.1 Proは思考を切れません。公式のクイックスタートは「K3.1 Pro always thinks」と明記しており、調整できるのは思考の深さ(reasoning_effort)だけです。値はlow・high・maxの3段階で、既定はいちばん深いmaxです。
もう1つ注意したいのが、出力の上限max_completion_tokensの既定値が131,072トークンと大きいことです。出力が上限まで伸びると、1回の呼出しでK3.1 Proは約1.31ドル、Highspeed版は約2.62ドルかかります(131,072 ÷ 100万 × 出力単価)。定型的な作業に使うなら、思考の深さを下げ、出力の上限を決めておくのが費用管理の基本になります。
import os
from openai import OpenAI
client = OpenAI(api_key=os.environ["MOONSHOT_API_KEY"], base_url="https://api.moonshot.ai/v1")
messages = [{"role": "user", "content": "この関数の境界条件のバグを探して"}]
res = client.chat.completions.create(
model="kimi-k3.1-pro",
messages=messages,
reasoning_effort="low", # 既定はmax。軽い作業は low から試す
max_completion_tokens=8000, # 既定は131072。上限を決めて費用を抑える
)
messages.append(res.choices[0].message) # 次のターンにはメッセージ全体を戻す
上のコードは公式の例をもとに私が書いたもので、構文の確認だけをしています。APIキーを作っていないため、実際には呼び出していません。
移行で引っかかりやすい点もクイックスタートにまとまっています。temperature(1.0)やtop_p(0.95)などは固定値で、リクエストに含めないよう案内されています。生成の揺れを温度で抑えていた処理はそのまま移せません。Claude APIでも新バージョンで同じ変更があり、temperatureを外すときの影響の調べ方はそちらで詳しく書きました。複数ターンの会話やツール呼出しでは、APIが返したassistantメッセージを丸ごと次のリクエストに戻す必要があり、本文(content)だけを残すのは不可とされています。画像は公開URLで渡せず、base64かアップロードしたファイルのIDを使います。
Codexから使うなら設定ファイルに数行足すだけ
KimiのAPIは、OpenAIのCodexが使うResponses APIにそのまま対応しています。Codex向けの公式手順では、APIキーを環境変数KIMI_API_KEYに入れたうえで、~/.codex/config.tomlに次の設定を加えます。キーそのものは設定ファイルに書きません。
model = "kimi-k3.1-pro"
model_provider = "kimi"
model_context_window = 1048576
[model_providers.kimi]
name = "Kimi"
base_url = "https://api.moonshot.ai/v1"
env_key = "KIMI_API_KEY"
wire_api = "responses"
この設定をPythonの標準ライブラリ(tomllib)で読み込み、書式として正しく解釈できることは確かめました。手順書によると、Codexのデスクトップ版ではモデル名が「Custom」と表示されることがありますが、実際のリクエストはkimi-k3.1-proに送られます。401エラーはキーと接続先の組み合わせ違い、404はbase_urlの末尾に/v1がないことが主な原因として挙げられています。
APIを使うには、まず最低1ドルのチャージが必要です。無料枠はなく、累計のチャージ額で同時接続数や1分あたりの上限が決まります。
業務で使う前に確かめたいデータの扱い
運営元はシンガポールのMOONSHOT AI PTE. LTD.で、開発者向けプラットフォームのプライバシーポリシーは、収集した情報をシンガポールのサーバーに保存すると書いています。同じポリシーは、利用目的に機械学習モデルの訓練と改良を挙げ、その対象に利用者が入力した内容を含めています。
一方、データを保持しないモードの説明には「法人顧客のデータは既定でモデルの訓練に使わない」とあり、入力を保存しないモードも法人向けに申請制で用意されています。個人や小規模チームで作ったアカウントが、この「法人顧客」に当たるのかは文書から読み取れませんでした。社外秘のコードや個人情報を送る前に、契約形態と訓練への利用の有無を営業窓口に確認するのが安全です。
社内規程で海外の生成AIサービスの利用に承認が必要な会社も多いはずです。Codexの設定を書き換えるだけで送信先が変わるため、個人の判断で試す前に、どのリポジトリなら送ってよいかを決めておくことを勧めます。
K2を使っている人は年内に移行が必要
料金表のページには、旧世代のK2シリーズについての告知も載っています。10月31日から新規登録したユーザーはK2を使えなくなり、2026年12月末までにK2シリーズ全体を終了する予定です。既存ユーザーは当面そのまま使えます。
K2.6やK2.7 Codeは入力0.95ドル・出力4ドルと、K3.1 Proの半額以下でした。移行すると単価は上がります。思考の深さの設定方法によると、K2のthinking設定は削除し、reasoning_effortに置き換える必要があります。K3.1 Proは思考を止められないので、K2で思考をオフにして安く速く回していた処理は、費用と応答時間の両方が変わる前提で見積もり直してください。
Sonnet 5.5から乗り換えるべきか
私の考えでは、Claude Sonnet 5.5で長いコーディング作業を回していて、出力トークンの多さが請求額を押し上げているチームには、K3.1 Proを並べて試す価値があります。測定上の成績はほぼ同じで、1タスクの実費が半分以下になる可能性があるからです。
逆に、扱うデータの保存先や訓練への利用に社内の制約があるなら、料金の差より先にそこで判断が決まります。クイックスタートには重みを11月4日までに公開するとあるので、自社環境で動かせる体制がある会社は、それを待つという選択肢もあります。前世代のKimi K3の公開のときと同じく、2.8兆パラメータの規模を自前で動かすのは簡単ではありませんが。
まず試すなら、公開してよいリポジトリを1つ選び、1ドルだけチャージして、普段Sonnet 5.5に頼んでいる作業を同じ指示で1回ずつ流してみてください。管理画面に出る出力トークン数を見比べれば、自分の作業でどちらが安いかがはっきりします。

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