「100万トークンあたり入力0.15ドル」。DeepSeekの新モデルの紹介で必ず出てくるこの数字は、平日の日本の昼間には当てはまりません。DeepSeekのAPIは時間帯で料金が変わり、ピークは日本時間の10時〜13時と15時〜19時。ちょうど多くの人が仕事をしている時間に、単価が2倍になります。
10月17日、DeepSeekはV4.1-Flashを「1017」版に更新しました。自社のベンチマークではコーディングでClaude Opus 5を上回ったとしています。私の答えを先に書くと、サブエージェントや下書きなど「量をこなす係」として今日から試す価値は十分にある。ただ、本番の既定モデルに据えるのは待つです。
理由は性能ではなく、運用の条件にあります。料金の時間帯、Claude Codeでの設定の落とし穴、モデル名を固定できない仕様、データの保存先。発表文からは見えにくいこの4つを、順に見ていきます。
何が変わったのか:中身の入れ替えと、自社計測のベンチマーク
DeepSeekの10月17日の発表によると、1017版は旧V4.1-Flashよりベンチマークが伸び、タスクを速く終え、出力も短くなりました。DeepSeekはこれを「性能とコストのパレート改善」と呼んでいます。Webサイト、アプリ、APIは同時に新版へ切り替わりました。重みはMITライセンスでHugging FaceとModelScopeに公開されています。
Hugging Faceのモデルカードに載っている主な数字は次のとおりです。すべてDeepSeek自身が計測した値です。
| ベンチマーク | 1017版 | 旧V4.1-Flash | Claude Opus 5 |
|---|---|---|---|
| DeepSWE v1.1 | 77.0 | 74.2 | 74.0 |
| Terminal-Bench 4.0 | 42.3 | 31.2 | 51.8 |
| ProgramBench | 29.1 | 20.3 | 37.0 |
| HLE(ツールなし) | 42.6 | 36.8 | 56.3 |
表をよく見ると、Opus 5を上回っているのはDeepSWEだけです。ターミナル操作や難しい推論では、まだ大きな差があります。比較対象もClaude Opus 5で、現行の最上位モデルではありません。10月17日時点では第三者による測定結果も出ていないため、「Opusより上」と受け取るのは早いと私は見ています。
それでも注目する理由は、同じ点数をどれだけ安く出せるかにあります。The Decoderの報道によれば、DeepSWEの1タスクあたりの費用は約0.20ドルで、旧版の約0.50ドルから下がりました。これもDeepSeekの発表値ですが、出力が短くなったことが料金に効いているのは筋が通っています。
日本の業務時間は、ほぼ「2倍料金」の時間帯
DeepSeekの料金ページでは、APIのモデル名deepseek-flashがそのまま1017版を指しています。料金は100万トークンあたり、オフピークで入力0.15ドル(キャッシュに当たれば0.003ドル)、出力0.60ドル。ピークではすべて2倍になります。
ピークの定義はUTCで平日の1時〜4時と6時〜10時。日本時間に直すと10時〜13時と15時〜19時です。中国の祝日と週末はオフピーク扱いなので、日本の会社員が使いやすい時間帯ほど高くなります。逆に、朝10時前、昼の13時〜15時、夜19時以降は半額です。
どれくらいの差になるか、Claude Codeでの作業1回分を仮定して計算してみます。入力200万トークン(うち9割がキャッシュに当たる)、出力10万トークンとすると、次のようになります。単価はすべて米ドル/100万トークンのため、トークン数を100万で割ってから掛けます。これは仮定に基づく試算で、実測の請求額ではありません。
- オフピーク:(180万÷100万)×0.003 + (20万÷100万)×0.15 + (10万÷100万)×0.60 = 0.0954ドル(約0.095ドル)
- ピーク:0.0954×2 = 0.1908ドル(約0.19ドル)
- 上位モデルのdeepseek-v4-pro(オフピーク):(180万÷100万)×0.022 + (20万÷100万)×0.66 + (10万÷100万)×1.98 = 0.3696ドル(約0.37ドル)
ピークでも1回0.2ドルほどです。2倍と聞くと身構えますが、個人の作業なら気にするほどではありません。差が効いてくるのは、夜間バッチではなく日中に大量のリクエストを流す業務システムです。そうした処理は、昼休みの13時〜15時や19時以降にずらすだけで半額になります。
ほかのモデルとも比べておきます。OpenAIのモデル一覧ではGPT-6.1 Solの出力が100万トークンあたり10ドルで、Flashのピーク料金の約8倍です。一方、軽量なGPT-6 Lunaは出力0.5ドルで、単価だけならFlashより安くなります。同じ条件で比べたベンチマークがないため、どちらがお得かは用途で試すしかありません。
Claude Codeで使うなら、Opusを選ぶと1017版にはならない
DeepSeekはAnthropic互換のAPIを提供しており、Claude Codeの接続先を差し替えるだけで使えます。DeepSeekのAnthropic API連携の説明にある設定は、次の2つの環境変数です。
export ANTHROPIC_BASE_URL="https://api.deepseek.com/anthropic"
export ANTHROPIC_API_KEY="DeepSeekで発行したAPIキー"
注意したいのはモデル名の対応です。DeepSeek側では、Claude Opus系の名前はdeepseek-v4-proに、Sonnet系とHaiku系の名前はdeepseek-flashに振り分けられます。Opusを選んだまま使うと、1017版ではなく、出力単価が約3.3倍のV4-Proにつながります。1017版を試したいならSonnet系を選んでください。
使えない機能もあります。ドキュメント(PDFなど)の入力やコード実行は、Anthropic互換APIでは非対応です。テキスト、ツール呼び出し、画像入力、思考モードは使えるので、Claude Codeでのふだんのコーディングなら大きな支障はないはずです。ただ、この環境変数を普段のシェル設定に書くと、本物のClaudeを使いたいときにも切り替わってしまいます。試す間は、専用のターミナルだけで設定するのが安全です。
Hacker Newsの議論を読むと、使い方の傾向がはっきりしています。「速さと安さが知能の差を補って余りある」という声がある一方で、同じコードベースのレビューで、DeepSeekが20分で重要な指摘を1件出す間に、GPT 6.1 Solは4.5分で2件出したという報告もありました。計画とレビューは上位モデル、量の多い実装は安いモデルという分業が、現実的な落としどころになりそうです。
Search・Fetch APIは10月中なら実質無料
今回、DeepSeekは自社の検索エンジンもAPIとして公開しました。Search・Fetch APIの説明によると、Searchは検索結果を、Fetchは指定したページをMarkdownに変換して返します。料金は成功したリクエスト1,000回あたり0.75ドルで、エラーや結果ゼロの場合は課金されません。上限はアカウントごとに毎秒5回です。
DeepSeekのAPIをClaude Code、Codex、DeepSeek Harnessから使う場合、サーバー側で呼ばれる検索は北京時間11月1日0時(日本時間1時)まで無料です。調査を多く含む作業を試すなら、10月中が都合のいい時期です。
「deepseek-flash」は予告なく中身が替わる
本番利用を待つべき理由のひとつは、モデル名を固定できないことです。今回、APIのdeepseek-flashは発表と同時に1017版へ切り替わりました。旧名のdeepseek-v4-flashを指定していても、今はdeepseek-flashへ転送されます。正式発表の前には、deepseek-v4.1-flash-1017という名前がAPIのモデル一覧に一瞬だけ現れ、すぐ消えたという報告もありました。
新版は出力が短くなったのが売りですが、プロンプトを細かく調整して出力の形式を固めている業務では、それ自体が変化です。要約の長さ、JSONの項目、文体が先週と同じとは限りません。DeepSeekを本番で使っている場合は、今日の時点で代表的な入力を何件か流し、出力を見比べておくことをおすすめします。
会社の業務で使う前に、データの保存先を確認する
個人情報保護委員会は2025年2月のDeepSeekに関する情報提供で、DeepSeekが取得したデータは中国のサーバーに保存され、中国の法令が適用されると伝えています。この扱いはAPIでも同じと考えるべきです。私が見たVercel AI Gatewayのモデルページでも、提供元はDeepSeekになっていました。仲介サービスを通しても、送信先がDeepSeekであることは変わりません。
重みがMITライセンスで公開されているので、自社のサーバーで動かせばこの問題は避けられます。ただ、モデルカードの総パラメータは763B。Kimi K3などと同じく、手元のPCで気軽に試せる大きさではありません。顧客情報や社外秘のコードを扱う業務では、自社で運用できる体制がない限り、クラウドAPIに流すのは見送るのが妥当です。
今日試すなら、オープンソースの作業か個人の下書きから
私は、公開しても困らないコードや個人の調べもので、まず数日使ってみるのがよいと考えています。Claude CodeならSonnet系を指定し、専用のターミナルで環境変数を設定する。昼休みや夜の時間帯に動かせば料金は半額です。検索が無料の10月末までに、自分の作業で上位モデルとどれだけ差が出るかを確かめておけば、11月以降に使い分けるかどうかを、ベンチマークではなく自分の結果で決められます。
2026年10月17日修正:環境変数の設定例を2行に分け、料金試算の式に100万トークン単位への換算を明記しました。

コメント