覇権は“回線と電力”に宿る
生成AIのブレイクスルーは、モデルと半導体だけの物語ではなくなりました。
鍵を握るのは、確保が難しく長期で効く「電力・回線・立地・運用」というインフラの4点セットです。
ソフトバンクグループ(SBG)が米DigitalBridge買収に動いた背景には、AI時代の“土台”を押さえる狙いがあります。
資産として持ち、継続的に運用し、スケールで競う。
インフラがいま、最も戦略的な“運用資産”になっています。
何が起きたのか:買収の骨子とタイムライン
SBGは米DigitalBridge Groupを企業価値約40億ドルで買収する最終合意を発表しました。
規制当局の承認などを経て、2026年後半の完了を見込むとしています。
公式発表や主要メディアによれば、取得は1株16ドルの現金提示で、取締役会の全会一致承認を得ています。
SBGは次世代AIサービスの土台となるデータセンター網と資金調達力の強化を明確に掲げています。
参考:
「AIが世界中のあらゆる産業を変革する中で、より多くのコンピュート、コネクティビティ、電力、拡張性の高いインフラが必要です」
出典:ITmedia NEWS
DigitalBridgeとは:デジタルインフラの“運用”プロ
DigitalBridgeは、データセンター、通信タワー、光ファイバー、エッジなどのデジタルインフラに特化した世界有数のオルタナティブ運用会社です。
運用資産(AUM)は約1,080億ドルとされ、北米・欧州・中東・アジアに展開しています。
ポートフォリオにはVantage Data Centers、DataBank、AtlasEdge、Yondr、Switchなどが並び、ハイパースケールからエッジまで広いレンジをカバー。
AI向けの高密度電力、光接続、低遅延配置といった要件に熟達している点が強みです。
参考:
- CNET Japan(AUM・買収条件)
- Data Center Café(ポートフォリオと開発容量)
- TBS NEWS DIG with Bloomberg(投資先一覧)
“設備投資”から“運用資産”へ:電力・回線・立地・運用の4本柱
なぜ運用資産なのか
AIデータセンターは建てて終わりではありません。
長期契約に基づく稼働率、電力単価、回線ルーティング、冷却方式、保守運用が収益と差別化の源泉になります。
インフラは時間と共に価値を生む“運用”のゲームに変わりました。
4本柱のポイント
- 電力:高密度GPU時代は1ラック数十kW〜の世界。再エネ・蓄電・系統接続の確保がボトルネック。
- 回線:主要IX/クラウドオンランプへの距離と多様経路。光ファイバーのダイバーシティがレジリエンスを決める。
- 立地:低遅延と用地・水・電力の三位一体。地政学と規制リスクも変数に。
- 運用:液浸/直接液冷、DCIM、需要応答(DR)連携、SLA設計。運用改善が継続的なIRRを押し上げる。
DigitalBridgeが強いのは、この4本柱を資本×運用ノウハウで束ねる点です。
SBGが取り込む価値は、単なる不動産や建設キャパではなく、収益を磨き続ける運用力にあります。
ソフトバンクの狙い:モデルから“土台”へ、そしてASIへ
SBGはAIを支える基盤をグローバルに押さえる動きを加速しています。
OpenAIやOracleと連携した米国内7GW級の「Stargate」計画も報じられており、計算資源の国家インフラ化が現実味を帯びています。
DigitalBridgeの運用力を取り込むことで、SBGは調達・建設・運用・資金循環までを垂直統合に近づけられます。
結果として、生成AIの学習・推論のコスト構造を自ら最適化し、ASI(人工超知能)ビジョンへの踏み台を得る格好です。
参考:
- ITmedia NEWS(Stargateの概要・発言)
- 日本経済新聞(戦略コメント)
現場でどう活かす:IT/経営の実務への翻訳
調達・設計の要諦
- 電力前提を再設計:3年先のGPU密度を見越し、液冷の導入前提で設計。系統接続とPPAの長期枠取りを前倒し。
- 接続戦略:主要クラウドのオンランプ最短経路+第二経路の確保。メトロ内ダークファイバーで遅延・冗長を両立。
- 配置の最適化:学習は電力単価重視、推論はエッジ近接。ワークロードの“適地適算”を徹底。
- 運用KPI:PUE/DCE、ラック当たり収益、SLA遵守率、需要応答収益、障害MTTRを定点観測。
ファイナンス・ガバナンス
- Capex→OpEx化:長期利用契約とオフテイクで資本効率を最適化。グリーンファイナンスの活用余地を検討。
- リスク分散:立地・供給者・冷却方式・電源ポートフォリオの分散で単一障害点を回避。
日本市場への示唆:通信インフラ連携と“共用”の波
国内では、基地局や屋内無線のインフラ共用が進み、投資効率と環境負荷の両立がテーマになっています。
DigitalBridgeは携帯インフラのシェアリング事業者を保有し、日本のJTOWERとも関係がある点が示唆的です。
データセンターと通信インフラの一体最適、共用モデルの拡大は、AI時代のユースケース普及を後押しします。
事業シナジーが国内でどう立ち上がるか、次の注目点です。
参考:
- ケータイ Watch(DigitalBridgeとJTOWERの関係)
リスクとカウンターポイント:電力ボトルネックと規制
このディールは規制当局の承認を前提とし、完了は2026年後半見込みです。
市場環境や金利動向、競争政策の影響は無視できません。
また、米国を中心に系統接続の渋滞が深刻で、電力が最大の制約になりつつあります。
資金だけでは解けない課題にどう対処するかが、運用資産としての真価を分けます。
参考:
- innovaTopia(電力網接続のボトルネックに関する指摘)
- Reuters(承認プロセス・AUM)
まとめ:AIの勝敗は“運用できる資産”が決める
SBG×DigitalBridgeは、AIの価値連鎖がモデル中心からインフラ運用中心へと広がる象徴的な一手です。
電力・回線・立地・運用を束ねる能力が、生成AIのコスト構造とスピードを左右します。
私たちが今日からできるのは、ワークロードの適地適算と、インフラの“設計—調達—運用—資金”を一体で捉え直すこと。
運用資産として磨き続ける姿勢こそが、AI競争の土台を強くします。

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