AI学習を“全員の当たり前”に
NTT DATAが、生成AIの学習と実践スキルを全社員に拡大します。対象は世界70か国以上の拠点に広がる約20万人。期間は2027年度までを視野に、段階的に進めます。まずは基礎から、実務で使えるレベルまで高めるのが狙いです。
骨格は、同社が2024年に整備した「生成AI人財育成フレームワーク」。今回、その適用範囲を一気に全社へ。AIガバナンスやセキュリティ教育も統合し、現場で“安全に強く使える力”を育てます。発表の詳細は公式リリースや各種報道で確認できます。公式発表(2025/10/29)/フレームワーク発表(2024/10/24)/日本経済新聞
発表の全体像と到達点
スケールとタイムライン
NTT DATAは、2027年度までに全社員の実践力を底上げする方針を示しました。2025年10月時点で、実務活用を担う「イエローベルト」修了者は7万人超。当初の「2026年度末までに3万人」目標を前倒し達成し、次の段階に進みます。出典/出典
対象とグローバル展開
対象は約20万人。70か国以上で同一基準の育成体系を回すことで、拠点間のスキル差を縮小し、プロジェクトの再現性を高めます。2024年発表のフレームワークに準拠しながら、各国規制や文化に合わせた運用ガイドを整備するのが今回の拡大ポイントです。出典
プログラムの中身:ベルト制度と学習パス
4段階のベルト制で“使える力”を段上げ
フレームワークはWhitebelt/Yellowbelt/Greenbelt/Blackbeltの4段階。各段で評価基準が明確化され、学習と実務を循環させます。特にWhitebeltはAIガバナンス・セキュリティ・リスク管理の徹底を含む“必修”。Yellowbeltからは、顧客案件で価値を出す実践が求められます。出典/出典
- Whitebelt:生成AIの基礎と安全な使い方、社内規程、プロンプト基礎
- Yellowbelt:ワークフロー設計、評価・改善、案件での実装補助
- Greenbelt:ユースケース設計、データ接続、運用設計、ガイド整備
- Blackbelt:全社横断の標準化、モデル選定、アーキテクチャ統括
2025年10月時点でYellowbelt修了者は7万人以上。この勢いを維持し、現場の“AI当たり前化”を推し進めます。出典
ガバナンスとセキュリティが先
本プログラムの肝は、「攻めの活用」と「守りの統制」の両輪です。モデル選定、データ取り扱い、評価手順、ログ保全、リーガル・調達の連携まで、実装の“前後左右”を標準化。特にプロンプトやエージェントの出力検証は、人間が目利きするプロセスを残し、過信による事故を防ぎます。出典
「積極的なAI活用の推進」と「AIガバナンスの徹底」、この両輪で変革を進める。
NTTデータグループ 代表取締役社長 兼 Chief AI Officer Abhijit Dubey
Whitebeltにガバナンス・セキュリティ教育を明記しているのは象徴的です。基礎でルールを共有し、Yellowbelt以降の実装で逸脱を防ぐ。大規模展開では、この順序が効果を左右します。出典
現場でどう学ぶか:受講の進め方と実務適用
おすすめの学習ステップ
- 基礎固め:Whitebeltで社内規程・リスク・評価観点を共通化。まずは社内安全環境での日常タスク自動化から。
- 実践導入:Yellowbeltでユースケースを小さく作り、効果とリスクの両面を継続測定。
- OJTとレビュー:プロジェクトに入り、人間の承認を組み込んだワークフローでエージェントを運用。
- コミュニティ活用:社内事例・テンプレ・プロンプトの共有基盤に貢献し、再利用性を高める。
- KPI運用:時間短縮率、品質指標、再現性、インシデント件数を月次レビュー。
社内ではGitHub Copilot等の開発支援や、営業支援エージェントなど用途別の実装が並走します。ZDNET Japanの発表では、Copilotのユーザー拡大、開発工程全域での活用計画が示されています。
実装の裏側:エコシステムと技術アセット
NTT DATAは、SmartAgent/Smart AI Agentといったエージェントコンセプトを掲げ、Agent OpsやUser-In-The-Loopなどの運用技術も公開しています。出典 また、OpenAIやGitHubとの連携により、モデル選定・セキュアな利用環境・人材育成を包括的に推進。学びと実装が相互に強化される設計です。出典
開発領域では、コード生成・変換「Codig」やAIテスト基盤「Bimac」など、内製アセットで実務効果を底上げ。教育は“ツールに人を合わせる”のではなく、仕事の型を変える方向に設計されています。出典
ビジネスインパクトの見立て:KPIと再現性
同社はソフトウェア開発の生産性を2025年度に30%、2027年度に50%向上という目標を掲げています。実際、適用事例は250件超に拡大し、プロセス全域での波及が見られます。出典
教育側のKPIは、修了数だけでなく“実装の質”が重要です。例えば、再現性の高いテンプレート化件数、エージェント導入後の品質指標の変化、インシデントの未然防止率など。学習→実装→評価→標準化の循環が回るほど、国や部門を越えた“同じ勝ちパターン”が増えます。出典
「AIによる処理を監督し判断する能力は、未来のプロフェッショナルに重要なスキルになる」
NTT DATA Data Insight
リスクと越えるべき壁
大規模育成の壁は、“学んだのに使われない”という断絶にあります。これを避けるには、現場の目標と直結するユースケースを早期に提供し、使うほど楽になる体験を設計すること。さらに、評価・監査・法務・セキュリティが“最後に止める役”ではなく“最初から設計する役”になる体制が決定打です。
モデルの選定・コスト・データ主権・サプライチェーンなど、ガバナンスの論点は増え続けます。だからこそ、Whitebeltでの“共通のものさし”と、Green/Blackでの“標準化の深堀り”が効きます。出典
まとめ:AIネイティブへの最短距離
今回の拡大は、単なるeラーニングの配布ではありません。教育・実装・ガバナンス・エコシステムを一体化し、世界70か国以上で“同じ型”を回す意思表明です。前倒しで達成した実績が示すとおり、現場で使える学習設計が強みです。出典/出典
企業が学べる教訓は明快です。小さく速く価値を出し、ガバナンスを前提に標準化し、コミュニティで再現する。学びが仕事を変え、仕事がまた学びを育てる。NTT DATAの取り組みは、AIネイティブ企業への現実的なロードマップを示しています。

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