金融の“つくる力”をAIが解放する——Uptiq『Qore』の衝撃
金融の現場に、AIを“企画から運用まで”持ち込むには壁が多いです。
専門人材の不足、レガシー統合、厳格なコンプライアンス。どれも時間とコストを奪います。
その前提をひっくり返すのが、UptiqがMoney20/20で発表した『Qore』です。
ノーコードで、数週間で、実運用に耐えるAIアプリやエージェントを構築できる——そんな具体解を掲げました。
単なるPoCで終わらせない。業務に入れ込むための設計思想と、金融特化のドメイン知識を最初から備えるプラットフォーム。
「AIを使う」から「AIを自分たちで作る」へ。地殻変動の幕が上がりました。
Money20/20で何が発表されたのか
ラスベガスで開催のMoney20/20 USAで、Uptiqは『Qore』を公開しました。
核心は、金融機関が数週間で本番グレードのAIアプリとエージェントを構築できるという点です。
“the intelligent platform that enables financial institutions to build production-grade AI applications and agents in weeks, not months.”
さらに、マイクロアプリとモジュラーエージェントで既存システムを拡張し、全取替えのリスクを避けられることも強調。
会場ではブースでのライブデモ招待も発表されました。
同内容はMorningstarやAI Journal、FFNewsなど複数媒体でも確認できます。
Morningstar / The AI Journal / FFNews
Qoreの中核コンセプト:マイクロアプリとモジュラーエージェント
Qoreは、金融特化の“ドメインアウェア”なAI基盤です。
特徴は、業務単位に小さく作って素早く回せるマイクロアプリと、役割別に組み替えられるモジュラーエージェントの二層構造。
これにより、レガシー更改を待たずに、既存の勘定系やデータウェアハウス、KYCツールなどと接続。
フロントからミドル、バックまで“狭く深く”を積み上げる展開が可能になります。
- ドメインアウェア:金融固有の用語・文脈・規制に最適化されたスキル群
- オーケストレーション:ワークフロー設計からプロンプト運用、監査までを一貫管理
- 相互運用性:外部API/データソースとの接続テンプレートとコネクタ
結果として、“使えるまでの時間”と“現場の納得度”を同時に引き上げます。
これはPoC疲れに悩む現場にとって、極めて実務的なアプローチです。
はじめての使い方:ノーコードでAIエージェントを形にする
Qoreはノーコード中心の体験で、現場チームが自走しやすい設計です。
最初の数週間で成果を出すための進め方を、簡潔にまとめます。
- 業務の“ひとかたまり”を選ぶ:たとえば融資審査の事前ヒアリング、投資助言の資料生成、コンプライアンス照合など。
- データ接続:必要な内部台帳、CRM、文書リポジトリ、外部データをコネクタで接続し権限を設定。
- ワークフローを配置:ノーコードキャンバスでステップを並べ、プロンプトやルールを埋める。
- 安全策を埋め込む:監査ログ、PIIマスキング、エスカレーション条件を最初から組み込む。
- 小規模リリース:限定ユーザーで回し、フィードバックを週次で反映。メトリクスでドリフトを監視。
“小さく始めて早く学ぶ”流儀に最適化されているのがQoreです。
最短での価値検証と、その後の拡張が見通せます。
アーキテクチャとガバナンス:本番運用を見据えた設計
プレス発表では、エンタープライズ級のガバナンスとコンプライアンスを維持しつつ、ビジネス部門が自律的に解決できることが繰り返し示されました。
Morningstarの告知要旨とも整合します。
- ポリシー一元管理:モデル利用、プロンプト変更、データアクセスの権限統制
- 監査と可観測性:トレーサビリティ、バージョン管理、評価メトリクス
- レガシー共存:モジュール単位で拡張し、全面更改のリスク・コストを回避
加えて、Uptiqは資金調達によりQoreの大規模展開を加速するとしています。
Dallas InnovatesやFinSMEsは、“プロンプトで設計・オーケストレーション・スケール”という基盤戦略を伝えています。
ユースケース:融資・投資・コンプライアンスの現場で
金融ドメインで“最初の一歩”になりやすい具体例を挙げます。
どれもマイクロアプリ×エージェントの設計で小さく始められます。
- 融資:申込書の不備抽出、財務諸表の要約、リスク要因の説明生成、与信方針への適合チェック
- ウェルス/アドバイザリー:顧客ゴールに沿った提案ドラフト、商品目論見書の平易化、適合性確認の下書き
- コンプライアンス:トランザクション監視の初期仕分け、規制改定の要点サマリ、証跡ログの整形
- オペレーション:問い合わせ自動応答、内部手順の検索支援、監査前チェックリストの生成
プレスでは、周辺パートナーとの連携例にも触れられました。
現場の体験価値を損なわず、むしろ迅速化することが肝です。
市場背景:生成AI×金融の現在地とQoreの位置づけ
生成AIは“使えば終わり”ではありません。
モデル選定、データ連携、プロンプト運用、評価・監査、そして継続改善。金融はとくに、証跡と説明責任が欠かせません。
Qoreはそこで、ドメイン特化のスキル群と、ガバナンス一体型のオーケストレーションを打ち出しました。
結果、PoC止まりを回避し、少人数で回せるチーム構成を後押しします。
メッセージは一貫しています。
「月単位の開発」から「週単位の提供」へ。
その速度でコンプライアンスを同居させる点が、Qoreの競争力です。
導入ステップとチェックリスト:失敗しないために
短期で価値を出し、中長期で拡張するための要点をまとめます。
ここを押さえると失敗確率が下がります。
- ビジネス価値の定義:時間短縮/エラー率低下/顧客満足のどれを測るか、KPIを先に決める
- データ衛生:ソースの鮮度・権限・PII方針・マスキング手順を明文化
- 責任分界:業務、IT、リスク/法務の三者で変更権限とレビューフローを合意
- 継続評価:モニタリング指標、ドリフト検知、A/Bの運用設計を最初に組み込む
- 拡張計画:成功パターンを水平展開するロードマップとテンプレート化の方針
Qoreはこの“型化”を支える仕組みを備えています。
現場の小さな成功を、組織の標準に変える流れを作りましょう。
総括:金融のAI内製化を、現実解で前に進める
Uptiq『Qore』は、金融の現実に合わせたAI内製化の土台を提示しました。
ノーコード、モジュール化、ガバナンス一体設計。どれも“今の組織で実行できる”設計です。
Money20/20でのメッセージは明快でした。
数週間で本番稼働へ。PoCの壁を越える。チームを“使う側”から“作る側”へ。
発表とその後の展開報道は、その方向性を裏づけています。
次は現場の番です。
小さく始め、早く学び、強く統合する。Qoreはそのための踏み台になります。

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