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Salesforce、MuleSoft「Agent Fabric」を発表

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エージェントの混沌に終止符を

AIエージェントが部門やベンダーをまたいで増殖し、現場は“スプロール”に疲弊しています。
分断された自動化は、重複投資や監査の死角を生み、想定外の振る舞いも招きがちです。
成熟した企業は、そろそろ“制御層”を求め始めています。

Salesforce傘下のMuleSoftが発表したAgent Fabricは、この課題に対する解です。
社内外で稼働する多様なAIエージェントを、発見・オーケストレーション・ガバナンス・観測の4軸で一元管理します。
空港の管制塔のように、エージェント群を安全で効率的なネットワークに束ねます。

背景と発表の要点

グローバルでエージェント採用は急拡大が見込まれます。
先行レポートでは、今後2年で採用が大幅伸長すると指摘され、2026年には多くの業務アプリにエージェントが組み込まれる見通しです。
この現実に、統制・可視化・相互運用のための“基盤”が必須になっています。

“MuleSoft Agent Fabric は、管理されていない AI エージェントを安全でインテリジェントなネットワークへと変革し、登録・オーケストレーション・ガバナンス・観測を単一の場所で提供する。”
Salesforce Newsroom

“MuleSoft Agent Fabric はエージェントの群を一元的に登録・調整・監督・監視するための中核ツール群(Registry / Broker / Visualizer / Governance)を提供する。”
CIO

“このソリューションはエアトラフィックコントローラのように、企業全体のエージェントを接続・調整して単一の安全なネットワークにする。”
Yahoo! Finance

MuleSoft Agent Fabricとは

Agent Fabricは、MuleSoftの統合基盤に“エージェント制御層”を加える新ソリューションです。
SalesforceのAgentforceで構築したエージェントはもちろん、サードパーティや社内開発のエージェントも対象にします。
異種混在のエージェントが共通のガードレールの下で連携できる点が要です。

核となるのは4つの機能コンポーネントです。
登録・探索、ブローカーによる調停、ガバナンスの強化、可視化による観測性の向上を通じて、スプロール状態の自動化信頼できるデジタル労働ネットワークへと再編します。

4つの中核コンポーネント

Agent Registry(レジストリ)

全エージェントと関連ツールを中心カタログに登録し、部門横断での発見性と再利用を高めます。
MCP(Model Context Protocol)やA2A(Agent-to-Agent)サーバー対応により、標準的な記述と呼び出しが可能です。
“誰が何を持っているか”が見えるだけで、重複投資やサイロ化を大きく減らせます。

Agent Broker(ブローカー)

業務ドメインに沿ってエージェントを編成・ルーティングし、クロスドメイン連携を実現します。
在庫監視→価格改定→不正検知のような複合タスクも、正しい順序と権限で安全に流せます。
結果として、エージェント間の“意味のズレ”や“暴走”を抑制します。

Agent Governance(ガバナンス)

ポリシー、データ境界、PII制御、監査証跡を統合ガードレールとして適用します。
各呼び出しにセキュリティとコンプライアンスのチェックが入るため、スケール時も安心です。
標準化された責務分離と権限管理で、現場の運用負荷も軽減します。

Agent Visualizer(ビジュアライザー)

エージェントの依存関係・意思決定フロー・相互作用をリアルタイムに可視化します。
ボトルネック特定、失敗トレース、SLO違反の早期検知に寄与し、運用のMTTR短縮に効きます。
“いま現場で何が起きているか”を一目で把握できます。

どう使うか:導入ステップとベストプラクティス

スムーズな立ち上げには、資産の棚卸しポリシー設計が肝です。
既存のBot、RPA、ワークフロー、API連携、独自エージェントを洗い出し、責務・入力・出力を明確化しましょう。

  • 棚卸しと分類:用途、リスク、データ境界でエージェントをタグ付け
  • レジストリ登録:MCPなどの標準に沿ってメタデータ化
  • ブローカー設計:業務ドメインごとにタスク連携のルールを定義
  • ポリシー適用:ガードレール(PII、地域規制、逸脱検知)を段階導入
  • 可視化とSLO:可観測指標(成功率、レイテンシ、コスト)を設定
  • カナリア運用:限定スコープで実地検証し、段階的に拡大

ポイントは、エージェントを“個”ではなく“ネットワーク資産”として扱うことです。
運用チーム、セキュリティ、業務オーナーの三位一体でガバナンスを回すと、価値化が速くなります。

アーキテクチャと標準:Agentforce、Anypoint、MCP/A2A

Agent Fabricは、MuleSoftのAnypoint Platformに統合され、API管理・イベント連携・セキュリティの資産をそのまま活用します。
SalesforceのAgentforceで作ったエージェントはネイティブ連携し、非Salesforce系エージェントも同じ制御面に乗せられます。

エコシステム連携の要がMCPA2Aです。
MCP準拠のコンテキスト記述やA2Aサーバーを介した相互呼び出しにより、異種間の相互運用性が現実解になります。
“API×イベント×エージェント”の三位融合で、アーキテクチャはより堅牢になります。

ユースケース:小売・金融・医療・ホスピタリティ

小売:在庫減少→価格最適化→不正検知を自動連携。
需要急変でも利益率と健全性を両立します。
チャネル横断のデータを前提に、連鎖的な判断を安全に自動化できます。

金融:住宅ローン審査を例に、KYC、与信、リスク判定、承認プロセスを安全にオーケストレーション
トレーサビリティ確保で監査も効率化します。
誤検出や差別バイアスに対してもポリシーで抑止可能です。

医療・ホスピタリティ:規制・個人情報保護の厳格な領域で、データ境界最小権限の原則を運用に埋め込みます。
実例として大規模施設での採用も報告されており、機動性と準拠を両立しています。
現場オペレーションの変化耐性が高まります。

ガバナンス/セキュリティ/観測性の深掘り

ガバナンスは“設計書”ではなく“実行制御”です。
ポリシーは呼び出し時に強制され、ログは不可変で残り、外部統制と内部監査に耐えます。
責務分離はRBAC/ABACで具体化されます。

セキュリティデータ境界・マスキング・トークン化の組み合わせが基礎です。
プロンプト/コンテキスト経路にも情報漏えい防止をかけ、サプライチェーンリスクを抑えます。
モデル切替やベンダー変更時も一貫ガードレールが維持されます。

観測性は運用品質の生命線です。
成功率、レイテンシ、コスト、逸脱検出の4指標を常時モニタし、SLOベースの運用に移行しましょう。
Visualizerで因果関係を可視化できると、改善サイクルが短くなります。

競合観と注意点

単一プラットフォーム内の“純正エージェント管理”は他社にもあります。
しかしマルチベンダー前提で、API統合の資産を背景に全社制御層を打ち立てるアプローチはMuleSoftらしい強みです。
既存のiPaaSやAPIガバナンス投資を活かしやすいのも利点です。

一方で、メタデータ整備ポリシー設計の初期工数は見積るべきです。
また、レイテンシやコスト最適化のために、推論キャッシュモデル選択の戦略も必要になります。
PoC段階から計測とチューニングに時間を割くと成功確率が上がります。

まとめ:エージェンティック・エンタープライズへの道

Agent Fabricは、エージェントの“数”ではなく“協調”で勝つための土台です。
発見・オーケストレーション・ガバナンス・観測を単一面に集約し、混沌を秩序へと変えます。
これは自動化の刷新であり、全社業務の持続的な生産性向上に直結します。

まずは高頻度・高影響の業務から範囲を絞って導入し、レジストリ→ブローカー→ガバナンス→可視化の順に成熟させましょう。
“エージェンティック・エンタープライズ”への移行は、今日から静かに始められます。
次の一歩は、資産の棚卸しと、最初のポリシー定義です。

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