つながりにくい電話から、AIの自動受付へ
台風や大雨のあと、電話がつながらない。そんな現場の“詰まり”に、NTT東日本が生成AIで切り込みました。不安全設備の申告から手配までを自動化し、一次対応の速度と確実性を高めます。
背景には、設備異常の申告が災害時に急増し、窓口が混雑していたという現実があります。自由発話の電話をAIが理解し、必要情報を聞き出し、現場への手配までつなぐ。現場起点の迅速化が主役に変わります。
公式発表は2025年9月17日。翌18日から稼働開始となりました。詳細は以下の公式リリースや各メディアが伝えています。NTT東日本 公式リリース/ITmedia/IT Leaders。
申告から手配までを完全自動化し、迅速かつ確実な対応を可能にする
ニュースの要点を素早く把握
何が始まったのか
- 対象: 電話線の垂れ下がり、電柱の損傷などの不安全設備に関する市民からの申告を、AIが自動で受け付け。
- 開始日: 2025年9月18日より本稼働。公式発表は9月17日。
- 狙い: 災害時の申告急増でも窓口混雑を回避し、手配を途切れさせない。
- 規模感: 故障受付『113』のうち約3割が不安全設備関連(報道より)。
自然災害の激甚化で、現場のインシデントは増加傾向です。AIが受付・補足質問・分類・手配を担い、人は高度判断と品質監督に集中する構図が見えてきます。
参考: ITmediaは自動受付と自動手配のワークフロー化、IT Leadersは『113』の3割が不安全設備を報じています。プレス配信はPR TIMESにも掲載。
どう動く? 自動受付の流れ
市民の自由発話から、現場手配まで
- 1. 受付: 電話で自由に状況を伝えると、AIが内容を即時テキスト化し意図を判定。
- 2. 追加質問: 緊急度・場所・対象設備・危険の有無など、漏れやすい必須項目を自然な対話で確認。
- 3. 分類と優先度: ルールとAI推定でトリアージ。高危険度は即時エスカレーション。
- 4. 手配: 管理システムに案件登録し、最寄りの担当へ自動アサイン。
- 5. 連絡: 受付番号や対応見込みのガイダンスを返し、状況追跡につなぐ。
この一連が待ち時間ほぼゼロで回り始めます。人的ボトルネックを避け、案件の取りこぼしも最小化します。
技術の裏側—生成AI、音声理解、業務オーケストレーション
理解・判断・実行の三位一体
受付の核は、音声認識と生成AIの連携です。自由発話の揺れを吸収し、意図の特定(インテント)と項目抽出(スロットフィリング)を確実に行います。
さらに、業務ルールとLLMのハイブリッドで誤作動を抑制。緊急度判定はルールで厳格化し、説明文生成はAIが担うなど、役割分担を明確にしています。
最後に、手配系システムとAPI連携して案件を自動登録。監査ログ、通話録音、マスキングなどの統制機能も組み込むことで、運用の信頼性を底上げします。
視座の詳細は、NTTグループの先端AI適用事例にも通じます。参考: NTT技術ジャーナル: 先端AI技術の取り組み
現場が速くなる理由—安全・品質・レジリエンス
速度だけでなく“抜け漏れゼロ”へ
- 標準化された質問: 人手だと抜けやすい情報も、対話フローで確実に取得。
- 即時トリアージ: 危険度や位置情報で優先度を自動算出し、迅速に割り当て。
- データ品質の向上: 構造化された記録が点検・予防保全に活きる。
- ピーク耐性: 災害時の急増でも待たせない受け皿となる。
この循環が回るほど、対処の初速と品質が両立します。結果として、安全確保とサービス品質の同時向上が実現します。
使い方ガイド—市民・オペレーション・管理者の視点
市民の申告をスムーズに
- 電話する: できるだけ正確な場所(目印や住所)、対象(電柱・線)、危険の有無を伝える。
- 聞かれたことに答える: AIが補足質問。2〜3問で必要情報が揃う。
- 受付番号を控える: 進捗確認のカギに。
オペレーション担当は“見て決める”へ
- ダッシュボードで案件・優先度・位置を俯瞰。必要時のみ人が介入。
- エスカレーションと手配修正はワンクリックで。
管理者はKPIで回す
- 平均受付時間/待ち時間、一次完了率、誤分類率をモニタリング。
- 音声・テキストログを用いた継続的学習と教育計画。
あわせて、Webからの申告窓口も活用可能です(参考: IT Leaders)。
導入のハードルとリスク—現実的なコントロール
誤認識と過信のリスクを減らす
- ガードレール: 重要項目はルール必須化、危険判定は二重化。
- 人による最終承認: 高リスク案件は必ず人的レビュー。
- データ保護: 個人情報のマスキング、保存期間の明確化、暗号化。
- 監査性: すべての対話と決定に監査ログを付与。
- 継続評価: 精度・公平性・説明可能性の定期点検。
現場起点のAIは運用で完成します。ローンチ後も、対話テンプレートとルールを定期的に磨いていきましょう。
他社・自治体への示唆—コールセンター自動化の作法
スモールスタート×現場起点の改善
- 業務分解: 受付→トリアージ→手配→通知をモジュール化。
- 本番に近いPoC: 少量トラフィックでA/B比較、指標で意思決定。
- API前提: 既存手配・GIS・CRMと繋ぐ設計を初期から。
- 運用文書: ガバナンス、異常時手順、逆指名ルールを整備。
NTT東日本は自社ノウハウを活かした生成AIサービスも展開中です。調達や伴走支援の選択肢として参考になります。生成AIサービス提供開始(2025/04)/法人向け生成AIサービス/自治体向けソリューション。
まとめ—“速さ”と“確かさ”を両立する現場DX
不安全設備の申告は、人命・財産・通信インフラに直結する課題です。生成AIによる自動受付は、申告の受け皿を広げ、手配までの一気通貫を実現しました。
現場からの申告を自動で受け、対処プロセスを効率化。安全と品質管理を一段引き上げる取り組みは、ピーク時のレジリエンス強化にも効きます。人が強みを発揮する領域へ集中できる設計こそ、次の標準です。
この動きは通信にとどまりません。自治体、インフラ、製造など現場接点の多い業務で同様の成果が見込めます。いま、受付の“詰まり”から解放される設計に舵を切る好機です。
コメント