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NTTデータ、AIの資源需要は持続不可能と警鐘—“サステナブルAI”白書を公開

目次

拡張するAI、限られる地球資源

生成AIの成長曲線は、電力・水・素材の需要曲線でもある。
NTTデータは“サステナブルAI”白書で、現在の延長線の需要は持続可能性を脅かすと警鐘を鳴らした。
環境負荷は、モデルの規模や推論回数の増加に比例して膨張する。

ポイントは「設計段階からの効率性」と「ライフサイクル思考」。
後付けの省エネでは限界がある。設計・運用・調達・廃棄の全工程に指針を埋め込むことが必須だ。

背景として、NTTデータはサステナビリティ経営のマテリアリティ更新を公表し、持続可能な社会の実現を掲げている。
サステナビリティ経営のマテリアリティを更新 | NTTデータ

白書の核心:サステナブルAIの設計原則

効率は「後追い」ではなく「最初の仕様」

白書が示すメッセージは明快だ。効率性は、要件定義とアーキテクチャに織り込むもの。
巨大モデル一択ではなく、課題適合のサイズ選定や推論経路の最適化で、環境負荷とコストを同時に下げる。

  • ライトサイズ設計:Small/Medium/Largeの多層モデルを用途に応じて使い分ける
  • 推論カスケード:軽量モデル→必要時のみ高精度モデルへ段階的に昇格
  • RAG前提の知識設計:モデルを膨らませず、最新情報は外部知識で補う
  • 量子化・蒸留・スパース化:計算/メモリ負荷を根本から削減

NTTデータは生成AIの社会実装に向けたガバナンス/技術の枠組みを継続的に発信している。
生成AI(Generative AI) | NTTデータ

三重の環境負荷:電力・水・クリティカルミネラル

電力:学習と推論の“二峰性”を読む

学習は短期集中的なピーク、推論は常時的な底上げ。
クラウドでの水平スケールは便利だが、負荷の平準化と再エネ比率の管理が鍵になる。

水:冷却と立地の戦略

データセンターの水使用は、冷却方式と立地で大きく変わる。
水資源の脆弱なエリアでは、空冷・液浸・再循環の最適化や、ワークロードの地域分散が有効だ。

クリティカルミネラル:調達と循環設計

先端半導体やサーバーは、多様なクリティカルミネラルに依存する。
長寿命設計・モジュール交換・再資源化まで視野に入れるライフサイクル調達が不可欠だ。

技術投資の加速とともに、NTTデータはAIガバナンスや実装リスクの観点を整備している。
生成AIの安全な利用を支援する「モデルリスク評価」 | DATA INSIGHT

すぐに使える:サステナブルAI実装チェックリスト

モデルと推論

  • SLM/MLM優先のマルチサイズ・ルーティング
  • RAG標準化重複の少ないコーパス構築(データ重複除去)
  • 量子化(INT8/4)と蒸留、混合精度、KVキャッシュ再利用
  • 問い合わせのバッチ化・キャッシュ・ストリーミングでトークン削減

インフラと運用

  • カーボン強度に応じた時間・地域シフト(再エネ比率の高いDCへ誘導)
  • GPUの高稼働(MIG/ジョブ統合)自動スケーリング閾値の適正化
  • ウォーター・バジェットと冷却方式の選択指針をSLAに明記
  • ハードウェアは修理・再利用・部品交換前提のモジュール設計を選ぶ

ガバナンス

  • グリーンSLO(クエリ当たり消費エネルギー/水/CO2e)を可視化
  • 案件審査にライフサイクル影響評価(LCA)を組み込む
  • ベンダーとエネルギー・水・ミネラルのデータ連携を義務化

“ガバナンスが速度を生む”という逆説

AIはスピードが命だが、無秩序な拡張は揺り戻しを招く。
NTTデータの最新調査も、リーダーシップ主導のガバナンスの必要性を強調する。

「AIに対する熱狂は否定しようがありませんが、私たちが行った調査の結果では責任を伴わないイノベーションはリスクを増大させることを示しています」

出典:NTTデータの報告書(Business Wire, 2025年2月)

ガバナンスは足かせではない。
明文化された原則とメトリクスは、現場の意思決定を速め、無駄な再設計を減らす。

技術の要諦:効率を生むアーキテクチャ

マルチモデルと経路最適化

MoEのスパース化、ルールベースの前段フィルタ、
軽量モデルの先行評価で高価な推論を間引く。
微調整はLoRA/Adapterで最小限に抑え、再利用性を高める。

計算とメモリの削減

  • 量子化対応学習(QAT)で精度と効率の両立
  • スパース・アテンション、シーケンス長の設計見直し
  • チェックポイント間隔の最適化と勾配圧縮

データの品質が最大の省エネ

重複・ノイズ除去は最強の節電策
同じ精度を、より小さなモデル・短い学習で達成できる。

関連:NTTデータの技術・実装知見
AI技術開発|AIの活用 | NTTデータ

調達から廃棄まで:ライフサイクルで向き合う

調達:情報開示と長寿命の優先

  • サプライヤーのエネルギー・水・ミネラル開示をRFP要件に
  • 保守部材の共有化、交換容易なモジュール構造を選定

運用:再エネ比率とシフト戦略

  • 炭素強度の低い時間帯に学習ジョブを寄せる
  • 水ストレスの低い地域DCへワークロードを分散

廃棄:再利用と資源回収

  • 社内外での再配備・中古再販のルートを確立
  • 基板・金属・磁性体のリサイクル率をKPI化

NTTデータの取り組みや事例は参考になる。
NTTデータの取り組み | データ&インテリジェンス

まとめ:持続可能性は“速度の敵”ではなく“競争力の源泉”

電力・水・クリティカルミネラルの制約は、AIの新しい設計要件だ。
サステナブルAIは、コスト最適化・レイテンシ短縮・信頼獲得を同時に実現する。

設計段階で効率とライフサイクル思考を組み込めば、
後戻りのない実装ができる。
それは地球への配慮であると同時に、事業の継続性と機動力を高める最短ルートだ。

参考リンク:
生成AI | NTTデータ
サステナビリティ経営のマテリアリティ
AIガバナンス調査(Business Wire)

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