タスクを“完了”させるAIへ — エージェントがチームで動く時代
AIにお願いしたのに最後は自分で決済や予約を片付けた、そんな経験はありませんか。提案で止まるAIから、実行して完了させるAIへ。いま転換点が来ています。
Fetchが発表したエージェント型LLMインターフェース『ASI:One』と企業認証ポータル『Fetch Business』は、複数のブランド公式エージェントを協調させて、フライト予約や買い物などの複雑なタスクを個人AI経由で完遂する構想です。信頼と協調を鍵に、エージェント経済の標準を狙います。
‘Consumers want AI that completes tasks, not just suggests them.’ Yahoo! Finance
この方向性は明快です。提案ではなく成果。個人AIを“指揮官”、ブランドエージェントを“実行部隊”に見立てた新しいユーザー体験が立ち上がります。
ASI:Oneとは — 個人AIがエージェントを束ねる指揮塔
ASI:Oneはエージェント協調の頭脳です。ユーザーの意図を解釈し、適切なブランドの公式エージェントを呼び出し、順序や依存関係を管理して、対話一回でタスクを最後まで運びます。
例えば、フライトを探し、ホテルを押さえ、レストランを予約し、旅程を共有するまでを、航空・宿泊・決済・メッセージングの各エージェントが役割分担して協調します。ASI:Oneは対話の文脈と個人の嗜好を踏まえ、適切なAPI権限とデータ共有を安全に仲介します。
海外メディアも、この動きをエージェントUIの検索的ハブと位置づけています。
‘The Google Search of AI agents? Fetch launches ASI:One and Business tier for [a] new era of non-human web.’ VentureBeat
要は、ユーザーの「したい」を計画に落とし、エージェントの協調で実行まで持っていく。UIの重心が、単独LLMの会話から、マルチエージェントのオーケストレーションに移るわけです。
Fetch Businessとは — 公式エージェントの信頼を証明する認証レイヤー
もう一つの柱がFetch Business。企業が自社の公式エージェントを検証・登録するためのポータルです。なりすましや偽装エージェント問題を抑え、ユーザーとブランド双方の信頼コストを下げます。
プレスリリースでも、信頼の課題に正面から取り組む姿勢が強調されています。
‘ASI:One Agentic LLM and Fetch Business verification portal solve the trust crisis holding back AI agents from completing real tasks.’ Morningstar (Business Wire)
企業側は、公式エージェントのドメイン帰属、API権限、ブランドポリシーなどを紐づけ、ユーザー側はバッジや証跡で本物かどうか判別できます。これにより、“決済や個人データを預けられるか”のボトルネックが解消に向かいます。
Agentverseと“Claim Your Agent” — 信頼できるエージェント経済の土台
FetchはエージェントのディレクトリであるAgentverseと連携し、個人・企業エージェントの発見性と相互運用性を高めます。数百万規模へ拡張を見据え、検索・評価・権限確認の基盤を整えます。
同時に、ブランドが公式エージェントを主張・保護する‘Claim Your Agent’の取り組みも打ち出されています。コピー品や偽アカウント対策をエージェント領域に持ち込み、ノックオフ対策と真正性の担保を標準化する狙いです。
関連の一次情報は複数媒体から確認できます。例えば、CRM Magazineや、前掲のYahoo! Financeなどです。
使い方イメージ — 旅・買い物・サポートまで、会話一回で
旅行の一括手配
ユーザーがASI:Oneに「来週の大阪出張を手配して」と伝えます。ASI:Oneは航空・宿泊・会食エージェントを順に呼び出し、会社規定・個人の嗜好・予算制約に沿って候補を提示。承認後、決済エージェントで支払い、日程をカレンダーと共有します。
- 航空: マイル優先/直行便などの嗜好を反映
- 宿泊: 会社レートやロイヤリティを考慮
- 会食: アレルギーと移動時間を最適化
買い物とアフターサポート
「子どもの誕生日に予算1万円でレゴを」と依頼。公式ショップのエージェントが在庫・配送・クーポンを提示し、最短配送で手配。もし初期不良があれば、サポートエージェントと返品エージェントが連携して返金まで完了します。
ポイントは、個人AIが窓口でブランド公式が実行という役割分担。ユーザーは会話に集中し、裏側の手続きはエージェント同士が調整します。
仕組みの深掘り — マルチエージェント協調とセキュリティ設計
オーケストレーション: ASI:Oneはサブタスク分解、依存関係の解決、エラー時の代替案提示を担います。各エージェントは明確な責務境界を持ち、入出力の契約と権限が定義されます。
権限と検証: Fetch Businessの検証を通過したエージェントのみが、支払い・顧客データへのアクセスなど高リスク権限を行使可能。バッジや署名で真正性を確認しつつ、行為ログを可観測化します。
プライバシー: 必要最小限のデータを短期委任し、タスク完了後は削除・トークナイズする設計が推奨されます。個人AIはデータのゲートキーパーとして機能し、共有前に意図と範囲を再確認します。
失敗耐性: 一部のエージェントがダウンしても、互換エージェントへのフェイルオーバーや、ユーザーへの部分成果提示で段階的完了を目指します。これにより、現実の“ゴール未達”を減らします。
競合・位置づけ — “非人間のウェブ”に向けた検索の再定義
エージェントはAPIを“巡回”し、互いに交渉し、意思決定していく。VentureBeatは、これを“非人間のウェブ”への移行として描きました。検索はリンクの一覧ではなく、実行可能な手続きの編成に変わるのです。
競合は大手の汎用エージェントやOSレベルのアシスタントですが、Fetchは公式認証と協調前提を核に差別化。ブランドとユーザー双方の信頼をテコに、タスク完遂率で勝負します。
一次報道の解説はVentureBeatで丁寧にまとまっています。
導入のポイント — 企業・開発者が今やること
企業は早期に公式エージェント戦略を固めるべきです。製品カタログ、在庫、配送、決済、サポートなど、主要業務をエージェント化し、Fetch Businessで検証を通しましょう。
- ブランド保護: ‘Claim Your Agent’でなりすまし対策
- 権限設計: 支払い/個人情報へのアクセス制御を厳密に
- 観測性: ログ/監査/SLAでトラブル時の説明責任を確保
- UX: 料金・返品・保証など“最後の一手”まで自動化
開発者は、最小のスコープで単機能エージェントを提供し、ASI:Oneとの相互運用を検証するのが近道です。対応ドキュメントや最新情報はCRM Magazineなどの紹介を参照すると把握が早いです。
まとめ — 信頼×協調で、AIはついに“片付けてくれる”
FetchのASI:OneとFetch Businessは、提案止まりのAIからタスク完遂型AIへの流れを加速させます。Agentverseや‘Claim Your Agent’を含むエコシステムは、スケールする協調と信頼の両輪を押さえています。
ユーザーは会話に集中し、企業は公式エージェントで価値を届ける。これが“次のUI”の当たり前になるでしょう。今から準備する企業こそ、エージェント経済の主役に躍り出ます。

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