空の顧客体験は“エージェント化”で塗り替わる
空港に着いた瞬間から、あなた専属のAIが旅程、席、乗継、機内の過ごし方まで先回りして整える。
スマホには静かな通知が届き、必要な選択肢だけを提示してくれる。
これがRiyadh Airが目指す“エージェント時代”の旅行体験だ。
創業時からAI前提で設計される“AIネイティブ航空会社”。
同社は顧客接点と運航を、複数のAIエージェントが協調するアーキテクチャで結び直す。
単なるチャットボットではなく、人とAIが並走する運航・サービスの再定義である。
Riyadh Airという青写真
Riyadh Airはサウジアラビアの新たな国営航空会社で、リヤドを拠点に立ち上がる。
運航開始は2025年の予定。
100以上の都市を結ぶ構想が公表され、機材計画も大胆だ。
機体はボーイング787-9を最大72機発注と報じられ、長距離ネットワークを見据える。
同社の位置づけや就航計画の概要は、複数の一次情報と報道で確認できる。
参考: Wikipedia(リヤド・エア) / Aviation Wire
エージェント時代のCXアーキテクチャ
“AIネイティブ”の本質は、単一の巨大モデルではない。
予約、空港、機内、不整備時の迂回、帰着後のロイヤルティ運用まで、旅の離散的な瞬間を小さなエージェントで分担し、相互に文脈を受け渡すことだ。
- ジャーニー・ブローカー: 旅程の文脈を維持し、顧客と現場のエージェントへ要約を配信
- 顧客接点エージェント: 予約/変更/補償/オファーをリアルタイム最適化
- 運航連携エージェント: 機材・気象・乗継の制約を評価し、迂回や再配置を提案
- クルー・コンシェルジュ: 勤務・ブリーフィング・機内応対・不測事態の手順を即時提示
- ガバナンス・エージェント: 安全・規制・ブランド基準をチェックし逸脱を抑止
鍵となるのは、プロファイル、ルール、KPI、責任境界を“オーケストレーション層”で管理すること。
ここが壊れると、優れたモデルも顧客体験に結び付かない。
Adobe+IBMでつくるパーソナライズ基盤
Riyadh AirはAdobeと戦略的提携を発表し、リアルタイムなパーソナライズの基盤を整備している。
IBM ConsultingはリードSIとして導入を主導する。
「IBM Consultingはリードシステムインテグレーターとして、アドビのExperience Cloudテクノロジーを採用し、リヤド航空の旅客向けに一貫性のあるカスタマイズされた旅を作成します。」
共同通信PRワイヤー
Adobe Real-Time CDPが統合プロファイルを形成し、生成AIと機械学習で瞬間ごとの体験を差し替える。
この流れは英語リリースでも強調されている。
参考: Moomoo(PR要旨)
顧客の許諾に基づくデータ活用を前提に、メッセージ、オファー、UIを“今この瞬間”の文脈で再構成する。
エージェントが提案し、人が最終決定する設計が現実的だ。
クルー向けAIコンシェルジュの使いどころ
旅客体験は現場の一手で良くも悪くもなる。
クルーの判断を支える“AIコンシェルジュ”は、AIネイティブの要だ。
- 出発前: 便固有のブリーフィング要約、乗客属性の留意点、機材・気象の注意点を数十秒で提示
- 搭乗・機内: 混雑・特別対応・座席交換・アレルギー等に対する推奨手順を即時参照
- 不整備・遅延時: 代替案の優先順位、補償やクーポン配布の基準、関係部署への自動連絡
この“瞬時の判断支援”は、エージェントのオーケストレーションが適任だ。
たとえばIBM watsonx Orchestrateのようなワークフロー/エージェント連携基盤を用いれば、運航、CS、収益管理の手続きを跨いで自動実行できる。
同社が採用する具体製品は今後の開示次第だが、設計原理はここに収束する。
統合パフォーマンス管理:運航×顧客×収益のリアルタイム連動
エージェント化の価値は、KPIを横断で“その場”に反映できる点にある。
OTP、NPS、補償コスト、アップセル率、カーボン強度を共通のダッシュボードで監視し、AIが是正アクションを提案。
現場は承認するだけでよい。
Riyadh Airは国連グローバル・コンパクトに参加を表明しており、サステナビリティ指標の埋め込みも前提になる。
参考: 共同通信PRワイヤー(UNGC参加)。
環境・安全・顧客価値のトレードオフを、エージェントが数値で可視化することで、意思決定の質は安定する。
AIネイティブをゼロから設計する原則
- エージェントは小さく、境界は明確に: 目的、責任、失敗時のフォールバックを定義
- データは“許諾と文脈”が主語: RT-CDPで統合し、用途別の最小限参照に限定
- 人間中心のHITL: 影響の大きい処理は人が承認、履歴を必ず残す
- モデルは交換可能に: ベンダーロックインを避け、評価・切替を常態化
- 運用を設計に内蔵: 監査ログ、ガードレール、KPI連動のアラートを最初から実装
“先に体験、後から自動化”ではなく、体験と自動化を同時に設計する。
これがAIネイティブの違いだ。
実装ロードマップと“使い方”の勘所
0–90日:価値の可視化
- 優先3ジャーニー(予約変更、不整備時対応、乗継保護)を選定
- Adobe RT-CDPで“許諾済みデータの最小統合”を構築、パーソナライズAB実験を開始
- クルー向けAIブリーフィングのプロトタイプを運用テスト
90–180日:オーケストレーション本格化
- 運航・CS・収益管理の業務フローをエージェント化、HITL承認を実装
- 不整備時の補償・再手配を半自動化、KPIに直結
180–365日:スケールとガバナンス
- モデル評価基盤を運用化、ベンダー横断で比較・切替
- 安全・法務・ブランドのガードレールを“ルールエンジン+監査ログ”で標準化
“使い方”の要点は、エージェントに目的と制約を与え、成功/失敗の学習をKPIに接続すること。
人は“判断の質”に集中する。
なぜRiyadh Airが面白いのか
既存資産に縛られない“ゼロからの設計”は、AIネイティブの理想形を試せる希少な機会だ。
Adobe×IBMの組み合わせは、顧客体験と企業運用を両輪で回す現実解でもある。
クルーのコンシェルジュ化、顧客の事前合意に基づく最小データ活用、KPIと直結した自動是正。
これらが滑らかに繋がるとき、航空の常識は更新される。
“エージェント時代”の最初の実装例として、Riyadh Airの進捗は注目に値する。
まとめ:エージェントで“旅”を再発明する
Riyadh Airの挑戦は、AIを“部署の道具”ではなく“旅のOS”に昇華させることだ。
小さなエージェントが連携し、人の判断を後押しし、KPIで自らを正す。
顧客は待たされず、現場は迷わず、企業は迷走しない。
このシンプルな約束を、技術と設計で守り切れるか。
2025年、その答えが動き出す。

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