プロンプトが守りの最前線へ
生成AIの導入が進むなか、攻撃者はプロンプトそのものを狙います。たった一文の誘導で、秘密情報の吐き出しやルール逸脱が起きる世界です。
そこでRadwareが発表したのが、LLMの前段で危険な入出力を検査・遮断する新機能『LLM Firewall』です。
この仕組みは、アプリやエージェントがLLMへ到達する前に、プロンプトや応答を解析してガードレールを強制します。
社内Copilotから顧客向けボット、RAGまで、モデルや統合先を問わずに保護をかけられるのが特徴です。
プロンプトレベルで脅威を止め、LLMに到達する前に無害化する
GlobeNewswire
何が新しい?Radware『LLM Firewall』の骨子
LLM Firewallは、RadwareのCloud Application Protection Servicesにアドオンとして組み込める、モデル非依存のリアルタイム防御です。
プロンプトインジェクション、ジェイルブレイク、リソース濫用、PIIの持ち出しなどを検出・遮断し、規制対応を支援します。
特に注目は、入力だけでなく応答も検査し、個人情報や機密の露出を抑える点です。
GDPRやHIPAAなどの準拠を下支えし、企業のAI利用を継続可能にします。
MSSPが複数環境へ共通ルールを展開しやすい『Master Templates』も提供されます。
AIセキュリティはプロンプトで強制すべきという前提で設計され、注入やジェイルブレイク、資源濫用を防ぐ
SecurityBrief
仕組みとアーキテクチャ
アーキテクチャの要は、アプリケーションとLLMの間に挟まるインライン層です。
ここでプロンプトとツール実行の意図解析、ポリシー適用、マスキング・リダクション、拒否・再ルーティングなどを行います。
典型構成は、アプリ→LLM Firewall→LLMもしくはRAGゲートウェイの直列配置です。
レスポンス側では、機密語彙のフィルタや脱漏防止の再検証を行い、OWASP Top 10 for LLMs/GenAI 2025に沿う対策をカバーします。
モデルは選ばず、API経由の外部LLMや社内ホスト型にも適用可能です。
この前段防御により、危険プロンプトがモデルの文脈に注入される前に止められます。
結果として、推論コストやデータベース呼び出しの無駄も抑えられ、安定運用に寄与します。
ユースケースと使い方
社内支援Copilotの保護
社内文書検索と組み合わせた回答支援では、ファイルパスや顧客識別子の露出を避ける必要があります。
LLM FirewallでPII・機密語彙の辞書を定義し、取り出し・返答の両方向で自動マスキングを実施します。
カスタマーサポート・ボット
外部ユーザーの悪意あるプロンプトを想定し、インジェクションとジェイルブレイクのパターン検知を有効化します。
ヘイトスピーチや有害表現の出力規制も一体で適用し、ブランドリスクを抑えます。
RAG/ツール実行の安全化
RAGでは参照リンクの出所検証とハルシネーション抑制のルールを設定します。
エージェントのツール呼び出しには許可リストや引数制約をかけ、不要な外部I/Oを遮断します。
- 導入手順の例: APIゲートウェイにLLM Firewallを接続 → ポリシー/テンプレート適用 → 監視モードで検証 → 本番でブロック有効化
- 運用の勘所: ブロック率・誤検知率をダッシュボードで把握し、例外ルールはタイムバウンドで付与
- マルチ環境: Master Templatesで複数アプリに共通のガードレールを配布
ポリシー設計のコツ
最初にデータ分類を明確化し、PIIと秘匿語彙のタクソノミーを作ります。
ビジネス部門と合意した境界をルール化し、例外は記録可能なワークフローで扱います。
プロンプト強化は、システムプロンプトの固定化と入力の正規化を合わせて行います。
応答側には、不適切内容やコンプラ逸脱のモデレーションを複層で適用し、回避策を検討します。
- PII/機密の検出・リダクション辞書を段階的に拡充する
- ツール実行は許可リスト方式で、引数と頻度を制限する
- RAGは信頼ドメインのみを許容し、参照の真正性を検査する
- 監査ログにポリシー版数・判定根拠・追跡IDを残す
運用と可観測性
誤検知はゼロにできません。まずはモニターモードで影響を可視化し、検知閾値と例外を調整します。
以降は段階的にブロックへ移行し、週次でルールを差分適用します。
主要KPIは、ブロック率、誤検知率、コスト削減量、データ露出インシデントの減少です。
レッドチームの攻撃テンプレートで定期検証し、CIにプロンプト回帰テストを組み込みます。
悪性プロンプトを到達前に遮断し、不要なGPUやデータベース消費も抑制できる
MSSP Alert
他社動向と位置づけ
同分野ではAkamaiのFirewall for AIなどが登場し、プロンプト層の保護が潮流になっています。
また、MetaのLlamaFirewallのようなオープンフレームワークも普及の兆しです。
Radwareは既存のクラウドアプリ保護群と統合し、Web/アプリ/DDoS/APIと横断で扱える点が強みです。
モデル非依存で、企業のヘテロなLLM運用にマッチしやすい構造です。
- Akamai Firewall for AI はAIワークロード保護を前面に打ち出し、マルチクラウド適合を強調
- Meta LlamaFirewall はエージェント保護の研究成果を公開し、開発者のガードレール更新性を示す
- Radwareはエンタープライズ運用の一体管理と、規制準拠支援のワークフローで差別化
リスクと限界
攻撃は進化します。未知の脱出手口は必ず現れます。
前段防御だけに依存せず、RAGのソース管理、権限分離、ツールサンドボックス化など多層で臨みましょう。
また、過剰ブロックはユーザー体験を損ないます。
検出精度と許容度のバランスをKPIで可視化し、ビジネス合意の下で調整する体制が必要です。
導入チェックリスト
短期で価値を出すために、最小構成から始めて拡張しましょう。
以下の要点を押さえると、安全性と開発速度の両立がしやすくなります。
- データ分類・PII辞書の初版を用意し、例外承認フローを定義
- モニターモードで1〜2週間の実データ観測、誤検知の棚卸し
- Master Templatesで共通ルールを配布し、アプリ固有の差分だけ上書き
- レッドチームの攻撃テンプレで四半期ごとに耐性評価
- 監査ログをSIEMへ連携し、規制レポートに転用
まとめ
RadwareのLLM Firewallは、生成AIの安全運用をプロンプトから支える実装解です。
インジェクション、ジェイルブレイク、PII流出、資源濫用を前段で抑え、規制対応も後押しします。
モデルや統合先を問わない柔軟性と、クラウドアプリ保護群との一体運用は、現実の企業要件にフィットします。
まずは監視導入から始め、データに基づいて精度と体験の釣り合いを最適化していきましょう。
参考リンク:
GlobeNewswire,
The Fast Mode,
MSSP Alert

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