運用は“自律”へ動き出す
SolarWindsが発表したAI Agentは、観測・IT管理SaaSにエージェント機能を統合し、インシデントの検知から優先度付け、復旧の自動化までを一気通貫で支援します。
これにより、運用の現場は「通知の洪水」から抜け出し、より静かで確かな自律運用へと近づきます。
キーワードはAutonomous Operational Resilience。
自然言語で状況を問いかければ、要約と診断が返り、許可すれば修復まで進む。
オブザーバビリティとITSMの橋渡し役として、AIが“チームメイト”のように動きます。
AI Agentの全体像—何が変わるのか
狙いと背景
分散・ハイブリッド化で複雑化したIT運用では、異常検知や相関分析、復旧判断が人手に依存しがちでした。
SolarWindsはAI by Designの原則でチューニングしたエージェントを中核に据え、観測・自動化・復旧を循環させることで、反応的な運用から予測的で自律的な体制へ移行させます。
プラットフォーム内の位置づけ
- SolarWinds Observability(SaaS)における対話インターフェースとして動作
- Service Deskや運用自動化と連携し、チケット・ワークフローを横断
- ログやメトリクス、イベントを横断的に要約・診断し、実行アクションを提示
まずはオブザーバビリティのテックプレビューから展開し、ITSM側の相関やナレッジ生成なども順次追加が予定されています。
できること—検知から復旧までの“短絡路”をつくる
主な機能
- インシデント要約と診断収集:障害の全体像を数十秒で把握し、関連ログ・メトリクスを自動収集
- 推定原因の特定(Probable Root Cause):アラート・異常・イベントを突き合わせて因果を仮説化
- 修復提案と自動実行:ランブックの推奨を提示し、人の許可のもと自動実行までハンドオフ
- 自然言語クエリ:健康状態の質問、メトリクス比較、推奨事項の取得、複数手順のワークフロー起動
- 運用基盤の簡易管理:エージェントUIからSolarWinds Observabilityの設定・管理を実施
“It can automatically summarize outage, gather diagnostics, identify probable root cause, and suggest remediation steps—and which can be triggered autonomously with a human-permitted action.” — Network World
使い方—はじめの一歩と定着のコツ
初期セットアップの指針
- 観測データの接続:主要システムのログ・メトリクス・トレースを優先的に取り込み、相関の“土台”を固める
- 権限設計:対話実行・自動修復は承認フローを必須にし、ロールごとに実行範囲を明確化
- ランブック整備:既存SOPをテンプレート化し、提案→承認→実行の“最短距離”を用意
現場への組み込み
- アラート整流化:ダイナミック閾値と相関でノイズを削減し、重要イベントに集中
- 会話起点のトリアージ:当直はAI要約に沿って優先度付け、深夜帯のMTTA/MTTRを短縮
- ポストモーテム自動下書き:AIの時系列要約を叩き台に、原因・教訓・改善策の文書化を高速化
定着の鍵は、“人の判断を前提にした自動化”の設計と、成功体験の小さな積み上げです。
まずは高頻度・低リスク事象から自動化の範囲を広げましょう。
アーキテクチャ視点—相関・推論・実行の三層
AI Agentは、観測データの収集・正規化を基盤に、相関(Correlation)と推論(Reasoning)で意味づけし、最後に実行(Action)へ橋渡しします。
相関は異常・変更・イベントの時系列関係を手掛かりに、因果候補をスコアリングします。
推論では自然言語での説明性を重視。
原因候補や修復案を根拠つきで提示し、承認すれば拡張されたランブック実行や外部自動化へ連携します。
このループが検知→診断→復旧→学習を連続させ、次の障害に強くなっていきます。
あわせてEnhanced Root Cause Assistやダイナミック閾値の一般提供など、基盤機能の底上げも進行中です。
詳細はTechstrong ITの解説が参考になります。
成果の測り方—KPIと現場の体感
- MTTA/MTTRの短縮:要約・診断自動化により初動を圧縮、復旧時間も安定化
- アラートノイズ比:関係ない通知の割合を可視化し、継続的に削減
- 一次解決率:AI提案+標準ランブックで一次解決の成功率を底上げ
- 夜間呼び出し件数:自動実行と許可フローで、人的負荷を定量的に低減
- ナレッジ再利用率:再発インシデントへの再適用度を計測
SolarWindsのITSMレポートでも、生成AI活用チームは解決時間を有意に短縮したと報告されています。
出典:Business Wire
ガバナンス—“許可された自律”を設計する
AI Agentは人の許可を前提に自動実行をトリガーできます。
その強力さゆえに、権限・監査・変更管理の設計が欠かせません。
- 最小権限:実行アクションごとに権限を分離し、監査ログを必須化
- セーフガード:高リスク系(スケールダウン、構成変更)は多段承認や時間帯制限で制御
- 説明責任:AIの提案根拠を保存し、ポストモーテムで検証・改善に活用
SolarWindsはSecure by Designを土台にAI by Designを掲げ、信頼性と説明可能性の両立を目指しています。
ロードマップはプレスリリースで随時更新されています。
エコシステムと今後—相関・知識生成・自動実行の拡張
発表時点での中核は対話型の観測・診断・実行ですが、2026年に向けてService Deskのインシデント相関、ナレッジベース自動生成、自動ランブック実行などが予定されています。
これにより、ITSMの発見から恒久対応までがより密に繋がります。
- Incident Correlation(SD):関連インシデント群を自動特定し、問題管理を促進
- KB Generation:よく解決する事象から記事を自動生成し、セルフサービス拡大
- Automated Runbook Execution:標準手順の即時実行で復旧の“最短路”を量産
詳細はChannelE2EやIntelligent CISOが整理しています。
出典と追加リソース
SolarWinds AI Agent headlines multiple new AI enhancements aimed at empowering organizations with autonomous operational resilience. — SolarWinds Press Release
- Network World:AI Agentの狙いと機能
- Techstrong IT:対話クエリと実行、RCA/閾値の拡張
- ChannelE2E:2026年の相関・KB生成・自動実行
- Intelligent CISO:レジリエンスギャップとAI設計
- SolarWinds Blog:プロダクト視点のまとめ
まとめ—“人×AI”で運用を静かに強く
観測・IT管理SaaSに統合されたAI Agentは、インシデントの優先度付けと復旧自動化を押し上げ、運用の自律化に現実味を与えます。
人が意思決定し、AIが速度と再現性を担保する—その役割分担が、レジリエンスの新しい当たり前になるはずです。
まずはデータ接続と承認フローの設計から。
小さな自動化の成功体験を積み重ね、静かで強い運用へ移行していきましょう。

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