仕事の入口がAIに変わる
Googleが、企業の業務にAIを本格導入する新基盤「Gemini Enterprise」を発表した。
直感的なチャットを“入口”に、社内の文書、データ、アプリへ横断的にアクセスし、調査・分析・自動化を一体化する。
発表は米国時間10月9日、イベント「Gemini at Work」で行われた。
「Gemini Enterprise は、職場の AI への入口として機能し、直感的なチャットインターフェースを通じて、Google AI の最高の機能をすべての従業員にもたらします。」
出典:Google Cloud 公式ブログ
またGoogleは、次のようにも説明する。
「すべての従業員のあらゆるワークフローに対して、Google AI の全機能を提供できるよう設計された AI 搭載の対話型プラットフォームです。」
出典:Google 公式ブログ
全体像:エージェントが業務を走らせる
Gemini Enterpriseは最新のGeminiモデル群を基盤に、事前構築エージェントとカスタムエージェントを同じ環境で動かす。
ユーザーはチャットから呼び出し、必要に応じて業務アプリへ“手”を伸ばして処理を進める。
部門ごとに散在していたAI活用を、統合プラットフォームで再編する狙いだ。
Google Cloudはこの基盤を、セキュリティとガバナンスを前提に設計。
既存の業務資産への安全な接続、監査や権限管理、データのグラウンディングまでを一気通貫で提供する。
公式サイトでも、直感的なチャット、即戦力のエージェント、ノーコードの作成機能を強調している(出典:Google Cloud: Gemini Enterprise)。
事前構築エージェントとカスタム:即戦力と内製の両立
事前構築エージェントは、導入直後から活用できる“専門家”だ。
開発者向けのコーディングエージェント、データ分析に特化したデータサイエンス エージェント(プレビュー)などが用意される(出典:ASCII.jp)。
リサーチ、要約、可視化、ドラフト作成などを高速にこなす。
一方でカスタムエージェントは、ノーコードのワークベンチ(例:Agent Designer/Agent Builder)で構築できる。
自然言語で役割や手順を定義し、視覚化されたフローを組み替え、APIやコネクタを設定するだけでよい(出典:TechNews.jp、Impress Watch)。
現場主導の内製が現実味を帯びる。
- できることの例:請求照合作業の自動化、営業メールの下書き生成とCRM登録、ログ解析と異常アラート、採用候補のスクリーニング
- 利点:立ち上がりの早さ(事前構築)×現場適合性(カスタム)の両立
連携とグラウンディング:社内の「現実」に根ざす
エージェントは文脈が命だ。
Gemini Enterpriseは、Google WorkspaceやMicrosoft 365、Salesforce、SAP、ServiceNow、Workday、Atlassian(Jira/Confluence)など主要アプリやデータストアに安全に接続する(出典:クラウドWatch、ITmedia)。
これにより、チャット内の回答やアクションは、企業固有データでグラウンディングされる。
さらに企業ごとにナレッジグラフを自動構築し、関係性を理解したうえでパーソナライズした提案や実行を行う(出典:ASCII.jp)。
誤答の抑制、説明責任、再現性の面で大きな前進だ。
この“現実への接続”が、チャットを単なる会話から業務自動化へと押し上げる。
- 主なコネクタ:Google Workspace、Microsoft 365(Outlook/SharePoint)、Salesforce、SAP、ServiceNow、Slack、Workday、Jira、BigQuery ほか
- 効果:横断検索、要約と比較、根拠提示、次の最適アクションの自動提案
使い方:最短距離ではじめる導入ステップ
1. 業務テーマを絞る
はじめに“価値の早いテーマ”を選ぶ。
問い合わせ一次対応、請求・見積のドラフト、営業の次アクション提案、会議メモ自動化などだ。
小さく始めて勝ち筋を作る。
2. データ接続と権限設計
対象部門のSaaSとデータソースを最小限接続。
閲覧・実行権限、監査、PII/機密の取り扱いを先に固める。
セキュリティと体験のバランスが要。
3. 事前構築エージェントで成果を出す
既成のエージェントをそのまま使い、成果と学びをためる。
社内の“成功例”として共有し、採用を広げる。
同時に改善要望を収集する。
4. カスタム化で現場適合を高める
Agent Designer/Builderで、プロンプト、手順、コネクタを調整。
ワークフローの分岐や例外処理を可視化して拡張する。
内製チームの習熟度も上げていく。
- 代表シナリオ:営業パイプラインの健全性チェックとフォロー自動提案、カスタマーサポートのナレッジ回答とチケット更新、財務の月次集計と異常検知、HRの社内Q&A 24/7対応(出典:Google Cloud 製品ページ)
セキュリティとガバナンス:企業利用の土台
Gemini Enterpriseは、企業向けのセキュリティと統制を前提に設計される。
エージェント単位の権限、監査ログ、データの所在を明確に管理できる。
また、エージェント同士の連携を標準化するAgent2Agent Protocol(A2A)や、マルチベンダー前提のAgent Development Kit(ADK)にも対応する(出典:クラウドWatch)。
さらに、画面操作まで自動化するGemini 2.5 Computer Useのプレビューも示されており、クリックや入力を自律実行できる流れが見える。
高リスク操作には人間の確認を必須にするなど、ガードレールの設計が鍵になる(出典:ITmedia)。
“安心して任せられる自動化”へ、段階的に近づく。
価格とエディション:選び方の指針
価格は、年額プラン換算でStandard/Plus が1ユーザー月額30ドル、中小向けGemini Business が月額21ドル。
フロントライン向けのエディションも用意され、トライアルも提供される(出典:Impress Watch、Yahoo!ニュース、製品ページ)。
部門スコープではBusiness、全社展開と厳格統制が必要ならStandard/Plusが目安だ。
- 目安:PoCや部門導入はBusiness、基幹ワークフローや高度な統制はStandard/Plus、現場従業員にはFrontlineを追加
- コスト評価:1席あたりの短期ROI(メール・資料・会議の生産性)+長期ROI(業務自動化の定着)で二軸評価
競合との違い:チャットから“業務OS”へ
ChatGPTや各種Copilotと重なる領域は多いが、Gemini Enterpriseはエージェント基盤×広範な業務連携×統合ガバナンスを一つに束ねた点が特徴だ。
旧Agentspace技術を統合し、ノーコードでエージェントを作り、実運用まで運べる“場”に重心がある(出典:DSK Cloud)。
部門横断のプロセス自動化に照準が合っている。
重要なのは“どのモデルか”より“どう使い切るか”。
既存ツール群と接続し、現実のデータで動かし、権限と監査で守る。
この地に足のついた設計こそ、競争力の源泉になる。
導入の勘所:失敗しないロードマップ
- ユースケース選定:反復頻度が高く、標準化しやすい業務から着手(問い合わせ一次対応、請求・見積、議事メモ、在庫・需要予測の前処理)
- データ準備:ソース棚卸し、権限の最小化、メタデータ整備、ログ設計、機密の取り扱いルール
- 現場協働:業務の例外・分岐を洗い出し、ワークフローに反映。影響を受ける担当者の教育と合意形成
- ガードレール:高リスク操作は人間の確認を必須、根拠提示と再現性の確保、テストデータと本番データの分離
- 効果測定:時間短縮、一次解決率、提案採択率、誤答率、ユーザー満足度。四半期単位で効果と学びを転用
小さく始め、早く学び、広く展開する。
その循環を支えるのが、エージェントと連携・統制を同居させたこの基盤だ。
“現場が自走できるAI”へ舵を切ろう。
まとめ:業務の文脈を理解するAIへ
Gemini Enterpriseは、最新のGeminiモデルを土台に、事前構築エージェントとカスタムエージェントを同居させる。
社内ドキュメントや業務アプリに会話的にアクセスし、調査・分析・自動化を一体化する“実行基盤”だ。
価格やコネクタ、ガバナンスも実運用を見据えている。
重要なのは、AIに“答えさせる”から“動かす”へ発想を切り替えること。
自社のデータで根拠を持って動かし、成果で語る。
仕事の入口が、AIに変わる時が来た。
参考リンク:
Google Cloud 公式ブログ/Google 公式ブログ(日本語)/Impress Watch/ITmedia/ASCII.jp/クラウドWatch/日経xTECH
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