静かに膨張するAIトラフィック
2025年春、企業ネットワークを流れる生成AI関連トラフィックが突如として跳ね上がりました。
Netskope Threat Labsは、わずか3か月で50%の利用増を確認し、そのうち半数超が未承認の“シャドーAI”と推定しています。
もはや「生成AIは一部の先進企業の話」という時代は終わり、全業種・全規模に波及している現実がデータで裏づけられました。
社内ポータルを開けばAI連携の申請フォーム、SlackではAI活用Tipsが飛び交う──。そんな光景の裏で、見えない“影”もまた濃くなっています。
利用急増を示す最新データの裏側
プラットフォーム別シェア
- Microsoft Azure OpenAI … 29%
- Amazon Bedrock … 22%
- Google Vertex AI … 7.2%
- その他(Ollama、open-source LLM など)…急成長中
実トラフィックでは API コールが前年同期比73%増。
生成AI採用は「爆発的」から「常態化」フェーズに入り、プラットフォーム横断でのPoCや社内システム連携が加速しています。
企業が利用するAIアプリの半数以上は未承認のシャドーAIである – Netskope Cloud and Threat Report 2025
シャドーAIが生まれる職場環境
なぜ禁止されているわけでもないのに、従業員はこっそりAIを導入するのでしょうか。
主因はスピードと柔軟性。正式なITプロジェクトを待つより、クレジットカード1枚でAPIキーを取得し、Pythonで数行書けば分析が終わる時代です。
もう1つはプラットフォームの多様化。SaaS型LLMインターフェイス「Ollama」やワークフロー自動化ツールを経由し、社内監視をすり抜けるケースが急増しています。
さらに、生成AI活用を推進する経営層と、リスクを抑えたい情報システム部門の温度差が埋まらないままプロジェクトが進むことで、結果として「影のIT」が形成されがちです。
セキュリティ担当者が直面する3つの課題
1. データ漏えい
ソースコードや顧客リストがLLMの学習対象に乗ってしまうリスク。
一度クラウド側にアップロードされたデータは消去保証が難しく、サプライチェーン全体に波及します。
2. コンプライアンス違反
EU AI Act、改正個人情報保護法など、域外規制を含む法令準拠が不可欠。監査ログが残らないシャドーAIは即座に違反リスクを孕みます。
3. モデル整合性の欠如
部門ごとに異なるモデルを使用すると、回答の一貫性やバイアス管理が困難になり、意思決定プロセスそのものが揺らぎます。
プラットフォーム別に見る攻防ライン
Azure OpenAI Service
企業向けガバナンス機能が豊富。
しかし、サイドチャネルとなる個別サブスクリプション契約が抜け穴に。
Amazon Bedrock
マルチモーダルモデルが統合されており、社内PoCが容易。
その手軽さがシャドーAI化を助長。IAMロールの粒度設計が鍵です。
Google Vertex AI
豊富なプリビルトAIが魅力。
裏を返せば、デフォルト設定のまま業務データをアップする事例が後を絶ちません。
いますぐ始める現実的な対策
- DLP+CASBの併用でリアルタイムにアップロード内容をモニタリング
- モデルカードを社内標準ドキュメントとして整備し、利用可否を短時間で判断
- 生成AI利用規程をポリシー→ガイドライン→FAQの3層構造で公開し、現場が読みやすい形に
- 部門横断のAIリスク委員会を設置し、シャドーAIを“敵”ではなく“早期検知”の指標に活用
- PoC段階から可観測性ツールを導入し、プロンプトと結果をメタデータとしてログ化
ポイントは禁止ではなく可視化。
監視を強めるほど従業員は迂回ルートを探すため、ベータ版を迅速に社内公開し「正式に使える道」を示す方が、結果的にリスクを抑えられます。
まとめ—“影”を味方に変える発想
生成AIプラットフォームの爆発的普及は止まりません。
だからこそ、企業が取るべきスタンスはシャドーAIとの共存です。
単に遮断するのではなく、利用実態を把握し、ベストプラクティスへ昇華する。
今後は、可観測性・権限制御・教育を柱とした“AIレディ”なITガバナンスが競争力を左右します。
シャドーAIの影は脅威であると同時に、イノベーションの熱量を映すシルエット。
影を恐れず、光を当てる仕組み作りこそ、2025年のAI戦略の核心となるでしょう。
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