視線は前方、会話で完結するドライブへ
クルマのUIは、画面やボタンから“会話”へ。
Cerenceの新基盤「xUI」をGeelyが採用し、車載アシスタントが本格的にLLMネイティブへ進化します。
運転中の情報取得、車両操作、ナビ、エンタメが、自然言語でシームレスにつながる時代が現実味を帯びました。
キモはハイブリッドLLMと統合UI(xUI)。
クラウド/ローカルの両方を賢く使い分け、マルチインテントやマルチシート、Say What You Seeのような新しい操作様式で、従来の“指示待ち”から“先回りする相棒”へ。
この変化は、音声アシスタントを単なる機能ゲートから、ドライブ体験の土台へと押し上げます。
今回の発表—採用のポイントと初搭載
GeelyはxUIを採用し、海外市場に向けた車載音声体験を刷新します。
公式リリースでは、複数意図の同時理解、Say What You See、自然な問い合わせ、そしてプロアクティブなコンテキスト理解が強調されています。
初展開はGalaxy M9で、2026年4月から段階的に導入予定と報じられています。
“As user demand for AI-powered experiences accelerates, Cerence xUI helps automakers bring LLM-based interaction to their vehicles at speed… transforming in-car assistants from reactive systems into proactive, context-aware companions.”
出典:Cerence Press Release
“The experience will begin deploying in the Geely Galaxy M9 in April 2026.”
出典:StockTItan
国内報道でも、車両制御エージェントやナビゲーションエージェントの強化、マルチゾーン対応などが伝えられています。
“複数意図認識、Say What You See機能…今後、車両制御エージェントやナビゲーションエージェントの改良を継続”
出典:Response.jp
“LLMネイティブな車載UX”とは何か
UIの中心を会話が担う統合設計
LLMネイティブとは、音声UIが単機能の入口ではなく、車内の全タスクを横断し、状況依存で解決へ導く中心的なUIに据える思想です。
ナビ、空調、メディア、車両設定、情報検索が会話で自然につながり、ユーザーは“やりたいこと”を話すだけで済みます。
これにより、スクリーン遷移や階層メニューの負担を会話側が吸収します。
ハイブリッドLLMとエージェントの協調
xUIはクラウド×オンデバイスのハイブリッド運用。
大規模な推論や汎用知識はクラウド、即応性とプライバシーが重要な制御系はローカルが担い、Vehicle Control AgentやNavigation Agentなど専門エージェントが役割分担してマルチターンで目的達成します。
これが“反応型”から“先読み型”への質的転換です。
使い方のイメージ—自然言語でつながる車内タスク
こんな言い方で、まるっと任せる
- 複数意図:「ちょっと暑いから後部座席は24度、窓を少し開けて。あと、この先で評価が高くてWi‑Fiのあるカフェを探して、最短で行けるルートに切り替えて」
- Say What You See:「その“省エネモード”にして、右下の“オート”もオン」— 画面に見えるラベルを言えば操作完了
- 会話でナビ補正:「渋滞が続くなら有料道路も可、子連れ向けの休憩スポットを1カ所入れて」
- 知識×制御:「急な雨らしい。安全のために推奨設定にして、ついでにワイパー感度を上げて」
- マルチシート:後席から「自分の席は涼しめに、音量は少し下げて」— 座席ごとのゾーン最適化
このようなタスク連結は、個別アプリ間の壁を越えるLLMネイティブならでは。
ユーザーは“意図”だけを述べれば、あとはアシスタントが手続きを肩代わりします。
舞台裏—音声、視覚、OSを貫くテックスタック
音の取り回しと聞き分け
CerenceはAudio AIとSpeech I/Oで、車内ノイズや話者位置の課題を処理します。
音声信号エンハンスメントでエンジン音・路面音を抑え、マルチゾーンとJust Talkで自然な起動と誤起動抑制を両立。
これがマルチシート会話を下支えします。
LLMと車載向け最適化
LLMはCaLLM(Cerence Automotive LLM)を中心に、車載データで最適化。
クラウド連携とオンデバイス推論のバランスを取り、低遅延とプライバシーを両立します。
- CaLLM概要: NVIDIA連携発表
OS連携とブランド主権
Android Automotive OSとの統合により、OEMはブランド体験とデータ主権を保ったまま会話UIを中核化可能。
サードパーティ搭載環境でも、xUIのエージェント群が上位の会話体験を提供します。
- Android Automotive対応: 詳細
ローカライズと海外展開—“方言と運転文化”まで読む
今回の採用では、海外ユーザーの言語・文化習慣に沿った最適化が柱です。
単語レベルの翻訳ではなく、地域の運転文化・検索傾向・口語表現を踏まえた理解が重視されます。
言い換えれば、“地域の常識”を踏まえた会話ができてはじめて、UIの中心を担えるのです。
“…enhance product usability – such as multi-intent recognition, Say What You See functionality, and understanding of natural inquiries and intents – delivering an in-car experience better aligned with regional linguistic and cultural habits.”
出典:GlobeNewswire
これはGeelyの“フルドメインAI基盤”とCerenceの“ハイブリッド×エージェントAI”の強みの掛け算。
多言語・多文化に挑む車載AIの実装知を、量産車レベルへ落とし込む実戦配備といえます。
安全性・信頼性・運用—LLM時代の設計指針
フェイルセーフと“決め打ち”の共存
制御系はローカル優先と決定論的APIで守り、自由度の高い生成は説明系・検索系で活用。
ネットワーク断時はオンデバイスへフォールバックし、低遅延で基本操作を継続します。
車内では、誤起動対策・コンテキスト境界のルール設計も要諦です。
データガバナンスと評価
- プライバシー:音声ログのオンデバイス前処理、最小化、匿名化
- 評価軸:ヒト受容性(応答自然さ)、完遂率、運転負荷影響、誤作動率
- 継続運用:OTAでプロンプト/知識更新、ヒューマンフィードバックでの微調整
これらを運用プロセスに組み込むことで、“賢いのに安全”なLLMネイティブ体験が定着します。
業界文脈—他社動向とxUIの立ち位置
BMWはAlexa LLM、VWはChatGPT統合など、車載LLMは群雄割拠の様相です。
xUIの強みは、車載特化のエージェント設計とハイブリッド運用の実装力、そしてUI横断の一貫体験にあります。
“ChatGPTをVWの音声アシスタント『IDA』に統合”
出典:日経xTECH
生成AIを“機能”でなく“体験の土台”へ昇格させるかどうか。
その観点で見ると、xUIは会話=車内の統合UIという解答を提示しています。
まとめ—“話すだけ”が、ようやく実用になる
Geely×CerenceのxUI採用は、車載AIがLLMネイティブとして成熟段階に入った合図です。
マルチインテント/マルチシート/SWYS/ハイブリッドLLMの組み合わせは、単なる便利機能ではなく、運転に集中できる統合UIを現実にします。
これからの設計テーマは明確です。
- 対話を中心に据えた統合UXの磨き込み
- 安全・信頼性と先回りの利便性の両立
- 地域・文化に根差したローカライズ
“話すだけで済むドライブ”はキャッチフレーズではなく、いよいよ量産車の現実へ。
次のターニングポイントは、どれだけ気持ちよく“任せられるか”にあります。

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