Mistralが10月20日に出した音声モデル群「Voxtral 3」は、文字起こしが1分0.0035ドルからです。1時間の会議なら約0.21ドルです。安いと感じますが、録音した会議を文字に起こすだけなら、今年中はもっと安い選択肢があります。
MicrosoftのMAI-Transcribe-2は、年末までの期間限定で音声1時間0.10ドルです。しかもMistral自身が公開した比較グラフで、MAI-Transcribe-2はVoxtral 3の上位モデルと同じ誤り率に並んでいます。
私の見立てでは、Voxtral 3の価値は録音の文字起こしの安さではありません。電話やWeb上で話しながら応答する音声エージェントと、欧州のサーバーで処理したい事情にあります。なお、料金と精度の数値は公式発表の値で、私はVoxtral 3のAPIをまだ使っていません。
Voxtral 3で発表された4つのモデルと料金
文字起こしが3種類、音声合成が1種類です。加えて、聞き取り、推論、業務システムの操作、発話をまとめて動かす音声エージェント用のSDKとAPIが出ました。公式記事の料金表は次のとおりです。
- Voxtral Mini Transcribe 3(録音のまとめ処理):1分0.0035ドル。40億パラメータの軽量版
- Voxtral Small Transcribe 3(同上、最高精度):1分0.004ドル
- Voxtral Mini Transcribe Realtime 3(話しながら文字にする):1分0.008ドル。35以上の言語で遅延0.5秒未満
- Voxtral Speech 3(音声合成):100万文字13ドル
- 音声エージェントAPI:推論にMistral Small 4を使うと1分0.04ドル、ほかの推論モデルなら1分0.08ドル
文字起こしの2モデルは、話者の区別と、専門用語や人名を事前に渡して認識を助ける機能(context biasing)に対応します。社名や製品名が多い社内会議では、後者の効きが精度を左右しそうです。
2025年7月の初代Voxtralの発表では、モデルをApache 2.0で配布し、APIは1分0.001ドルからでした。今回の公式記事には、ダウンロードできる重みやライセンスの記載がありません。自社サーバーで動かす場合は個別に相談する形です。Hacker Newsの発表スレッドでも、閉じたモデルになったことへの失望が目立ちました。手元のPCで無料で回せたVoxtralとは、別の製品と考えたほうがよいです。
会議を月20時間起こすなら、年内はMAI-Transcribe-2が半額以下
1日1時間の会議を月20日、合計20時間(1,200分)を文字起こしする場合で比べます。分単価のものは分数を掛け、時間単価のものは時間数を掛けました。金額はすべて米ドルで、税と為替は含めていません。MAIの2モデルは2026年末までの価格です。
| モデル | 単価 | 月20時間 |
|---|---|---|
| Voxtral Mini 3 | 0.0035/分 | 4.20 |
| Voxtral Small 3 | 0.004/分 | 4.80 |
| Voxtral Realtime 3 | 0.008/分 | 9.60 |
| MAI-Transcribe-2 | 0.10/時 | 2.00 |
| MAI Streaming | 0.54/時 | 10.80 |
月20時間なら、どれを選んでも月2〜11ドルです。個人や小さなチームでは、料金差より使い勝手と日本語の精度で決めてかまいません。
差が効くのは量が増えたときです。コールセンターの録音を月1,000時間起こすと、Voxtral Smallは240ドル、Miniは210ドル、MAI-Transcribe-2は100ドルになります。ただし、MAI-Transcribe-2とStreaming版の価格は2026年末までの導入価格で、来年以降の価格は発表されていません。年をまたぐ予算は、Voxtral 3の価格で見積もるほうが安全です。
使い始めるまでの手間も違います。Microsoft Learnの説明では、MAI-Transcribe-2はAzureのサブスクリプションとFoundryのSpeechリソースが前提で、対応言語の表には日本語が入っています。Azureを使っていない会社なら、MistralのAPIキーだけで始められるVoxtralのほうが早く試せます。
リアルタイムの文字起こしでは、Voxtral Realtime 3が1時間0.48ドルで、MAI-Transcribe-2-Streamingの0.54ドルより少し安くなります。ライブ字幕や通話中の支援が目的なら、ここはVoxtralが有利です。
日本語は評価に入っているが、日本語だけの点数はない
Voxtral 3の文字起こしは50以上の言語に対応します。公式記事の比較グラフは、7つのモデルがすべて対応する45言語の平均で、その一覧に日本語(JA)が入っています。日本語・韓国語・タイ語・中国語は、単語ではなく文字単位の誤り率(CER)で測られています。
言語を指定した場合の誤り率は、Voxtral Small Transcribe 3とMicrosoft AI Transcribe 2がともに4.1%、Voxtral Miniが4.6%、ElevenLabsのScribe v2が4.9%、GPT Transcribeが6.3%、Whisper large-v3が16.0%でした。Mistralは「Whisper、Scribe v2、Gemini 3.5 Transcribeを上回る」と書いていますが、Microsoftのモデルには触れていません。グラフ上は同率です。
45言語の平均なので、日本語が得意か苦手かはこの数字から分かりません。公式記事に日本語だけの値は見当たりませんでした。英語や欧州の言語で強くても、日本語の会議でも同じ順位になるとは限りません。
乗り換える前に、自分の会議音声でCERを測る
公表値で決められない以上、自分の音声で比べるのが確実です。手順は次のとおりです。
- 社内の会議録音から10分ほどを切り出す。雑音、複数人の発言、社名や製品名が入った部分を選ぶ
- その10分を人が正確に書き起こし、正解ファイルにする
- 比べたいサービスそれぞれで文字起こしし、結果をテキストで保存する
- 下のスクリプトで、正解と各結果の文字誤り率を出す
Python標準ライブラリだけで動きます。空白と句読点を除き、全角・半角をそろえてから、正解に近づけるのに必要な文字の置換・挿入・削除の数を数えます。
import sys
import unicodedata
def normalize(text):
text = unicodedata.normalize("NFKC", text)
return "".join(c for c in text if not (c.isspace() or unicodedata.category(c).startswith("P")))
def edit_distance(a, b):
prev = list(range(len(b) + 1))
for i, ca in enumerate(a, 1):
cur = [i]
for j, cb in enumerate(b, 1):
cur.append(min(prev[j] + 1, cur[j - 1] + 1, prev[j - 1] + (ca != cb)))
prev = cur
return prev[-1]
ref = normalize(open(sys.argv[1], encoding="utf-8").read())
hyp = normalize(open(sys.argv[2], encoding="utf-8").read())
print(f"CER: {edit_distance(ref, hyp) / len(ref):.2%}(正解{len(ref)}文字)")
保存したら、正解と文字起こし結果のファイルを渡して実行します。
python3 cer.py 正解.txt voxtral.txt
python3 cer.py 正解.txt mai.txt
注意点がひとつあります。このやり方では表記の違いも誤りに数えます。私が短い例で試したところ、正解「来週の定例は、火曜の十時からです。資料はTeamsに置きます。」に対し、「十時」を「10時」、「Teams」を「チームズ」と書いた結果は、意味が同じでもCER 25.00%になりました。比べるときは、数字や英字の書き方を正解ファイル側で各サービスの癖に合わせるか、差が出た箇所を目で見て、意味の誤りと表記の違いを分けて数えてください。
10分の音声なら、Voxtral Smallで0.04ドル、MAI-Transcribe-2で約0.017ドルです。一番手間がかかるのは正解づくりですが、一度作れば、来年価格が変わったときも同じ素材で比べ直せます。
Voxtral 3を選ぶ理由があるのは、音声エージェントと欧州処理
録音の文字起こしだけなら、年内はMicrosoftが安く、精度も公表値では同等です。それでもVoxtral 3を候補に残す理由は2つあります。
1つは音声エージェントです。聞き取りから推論、ツール呼び出し、発話までを1本の処理として提供し、電話回線(SIP)やブラウザ(WebRTC)、既存のコールセンター製品につなげるとしています。1件3分の問い合わせを月1,000件こなすと、3,000分 × 0.04ドル=120ドルです。推論に別のモデルを使うと240ドルになります。ただ、0.08ドルの料金にそのモデルの利用料まで含まれるのかは、公式記事からは読み取れませんでした。見積もる前に確認が必要な点です。
もう1つはデータの置き場所です。APIは欧州・米国・グローバルの各エンドポイントで提供され、Mistralは音声を保存するかどうかを利用者が管理できると説明しています。欧州の拠点や顧客の通話を扱う企業には、ここが決め手になり得ます。
逆に、日本語の議事録を安く作りたいだけの人には、今すぐ乗り換える理由は薄いと私は見ています。Hacker Newsでは、NVIDIAのParakeetなど手元で動く無料のモデルで足りているという声もありました。
今日やるなら、会議10分の正解ファイルを1つ作る
どのサービスを選ぶにしても、効くのは自社の音声で測った数字です。まずは次の定例会議の録音から10分を書き起こし、正解ファイルを1つ作っておくことをおすすめします。Voxtral 3とMAI-Transcribe-2の両方に流しても、合計0.1ドルもかかりません。
MicrosoftがMAI-Transcribe-2の来年の価格を出したら、そのファイルでもう一度比べてください。単価と精度を自分の会議で並べれば、どちらを使うかはすぐに決まります。

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